2012,06,27, Wednesday
| SS | 02:34 | comments (x) | trackback (x) |
2012,02,11, Saturday
エロがうまい人は文章もうまい気がするので、エロくて綺麗で読みやすい文章ってのはどうしたら良いんだろう、と思いながら書いてみた。目的を達成した気はしない。
あと、どうしてもネタを考えるといらん設定まで考えて長くなるので、前後をぶっちぎる練習も兼ねて。
タカくく・現パロ・R-18。付き合ってない。タカ丸さんはたらし。兵子さんはタカ丸さんに開発され済。
続き▽
あと、どうしてもネタを考えるといらん設定まで考えて長くなるので、前後をぶっちぎる練習も兼ねて。
タカくく・現パロ・R-18。付き合ってない。タカ丸さんはたらし。兵子さんはタカ丸さんに開発され済。
続き▽
| SS | 22:29 | comments (x) | trackback (x) |
2012,01,04, Wednesday
「……楽しかったあ……!」
「そうか、そりゃ良かったな」
過去の記憶を持つ者たちと引き合わされたあと、斉藤タカ丸は心底そう感じている声で呟いた。それにタカ丸の帰路と同じ方向に用があるためにその隣を歩いていた久々知兵助――現世では久々知兵だが――が相槌を打つ。その言葉こそ突き放したような無愛想さがあるが、その表情は柔らかい。その様子は全く昔と変わらず、タカ丸は何だかひどくそれに安堵した。
「来年は、滝夜叉丸君も喜八郎君も、兵助君たちと同じ高校なんだよね」
「そうだな。今日は都合がつかなくて来られなかった三木ヱ門も、ウチの高校を受けると言っていた。まあ、あの三人なら余程のことがない限り、受かるだろう」
「……そう、だよねえ」
普段ならば明るい調子で同意するであろうタカ丸の声が暗い。それに兵がタカ丸を見やれば、タカ丸はすぐに取り繕ったように笑みを浮かべる。けれど、その表情も長くは保たれず、すぐに意気消沈した様子を見せた。
「――何かあるのか?」
「あ……いや、ううん……うーん……」
煮え切らない様子で肩を落として足を止めたタカ丸に、兵子も同じく一歩先で足を止める。少し身を捻ってタカ丸を振り返れば、タカ丸は珍しくひどく眉を下げて兵を上目遣いで見た。その視線に言葉こそ出さないままで問い返すと、タカ丸は少し言葉を選ぶように視線を泳がせたあとに口を開いた。
「……いいなあ、って」
「? どういうことだ?」
「だって。滝夜叉丸君も喜八郎君も三木ヱ門君も、みんなまた一緒なんでしょう? それなのに、俺は一緒に居られないの。それってすごく、淋しいというか……勿論、美容師になるために高校行かずに専門行くって決めたのは自分なんだけど、何か、ちょっと嫌な言い方だけど、みんなずるいなあって。――ああ、ごめん、俺今すごく馬鹿なこと言ってる。兵助君、忘れて?」
いつものような笑みを浮かべるタカ丸に、兵は呆れたように溜息をついた。――いつもどおりの表情を本人は浮かべているつもりなのだろうが、全く表情を取り繕えていない。これが本当に元忍者だろうか、と兵は己の手を持ち上げた。そのままタカ丸の顔までそれを運び、その中央にある鼻を軽く摘む。兵のその行動に驚いたタカ丸は身を引いたが、兵子はそれ以上手を伸ばすことはしないままに口を開いた。
「――方法は、ないわけじゃないだろう?」
「え?」
「同じ学校に通いたいんだろう? あんた、専門学校は今年卒業するって言ってたじゃないか。……専門から高校に行くなんて聞いたことないけど、やろうと思えばできないこともないだろう。一年後輩になったとしても、あんたにその気があるならウチの高校、受験してみれば良いじゃないか。
……昔だって髪結いの修行もしながら、忍者の修行もしてたあんただ。やろうと思えば何だってできるんじゃないのか?」
兵ははっきりとタカ丸に告げる。――そう、やろうと思えば何だってできる。そう思わなければ、現代(いま)を生きてはいられない。変わってしまった己や、未だ出会わぬ人たち。それでも希望を捨てなければ、いつかは、きっと。
それはタカ丸に告げる、というよりも、自分自身に言い聞かせている言葉だった。それを自覚した兵は、前言を撤回しようと口を開きかける。しかし、それよりも先にタカ丸が兵の両手を掴んだ。
「――間に合うかな」
「いや、今のはわすれ」
「ううん、間に合わせる! 俺、やる! 一年後じゃなくて、みんなと、滝夜叉丸君たちと一緒の学年になりたい。たとえ三年間だけでも、またみんなで一緒に過ごしたいんだもん。父さんにお願いして、何とか三年間高校生やらせてもらう!」
強く兵の手を握ったタカ丸は、はっきりとそう言葉を紡いだ。その瞳は真剣で、兵は忘れろ、と言おうとした唇を止めた。握られた手のひらは熱く、タカ丸の意志をそのまま宿しているようだ。気圧されるように半歩足を下げると、タカ丸がさらに兵へと身を乗り出した。
「兵助君、お願い! 俺を高校に入学できるようにして!」
「は……? いや、あの、私に裏口の伝手はないぞ」
「裏口入学じゃなくて! 勉強! 俺、美容師の勉強は結構頑張ってるつもりだけど、高校受験の勉強はしてないから、だから、その……勉強教えてください!」
驚いてとんちんかんなことを言う兵に、タカ丸は強い調子で首を横に振る。さらに身を乗り出して彼女へ乞う瞳は真剣で、兵は思わずその顎を引いていた。
「それは……構わないが……」
「本当!? やった、兵助君どうもありがとう! 兵助君に教えてもらったら絶対大丈夫だよ! 俺頑張るから!」
勢いよく己へ抱きついたタカ丸を受け止めきれず、兵はさらに半歩後じさる。けれどタカ丸は喜びに頭がいっぱいで彼女がよろめいたことすら気づかず、さらに兵を強く強く抱きしめた。まるで子どものようなその行為に、兵は小さく溜息をつく。そして、己の身体をぎゅうぎゅうと圧迫するタカ丸の頭を手で引きはがしながら口を開いた。
「――喜ぶのはまだ早いだろう。実際に専門卒業したあとに高校へ通えるかも分からないんだし、タカ丸さんのお父上が了承してくださるかも分からない。それに、専門学校は今年卒業でも、確か美容師の国家試験があるだろう? まずは試験に受かることが第一じゃないのか? そのために専門学校へ行ったんだろう」
「う……」
「とりあえず、ゆっくり今のことを考えて、お父上にも話してみろ。――言い出しっぺは私だし、専門卒業してから高校に入れるかどうか、ちょっと調べてみるから。もし受験できるようなら、協力は惜しまないし」
「うん、兵助君ありがとう! 俺、父さんと話してみる!」
今泣いたカラスがもう笑う、と言わんばかりにタカ丸は笑み崩れた。せっかく兵が空けた距離も構わず、再び彼女の身体を抱きしめる。背骨を圧迫する力に兵は顔をしかめたが、あまりにもタカ丸が嬉しそうにしているのでもはや小言を漏らす気も失せてしまう。まるで大きな犬に懐かれているようだ、と頭の隅で思いながら、彼女は喜びで前も周囲も見えていないタカ丸の背中を宥めるように叩いた。
「そうか、そりゃ良かったな」
過去の記憶を持つ者たちと引き合わされたあと、斉藤タカ丸は心底そう感じている声で呟いた。それにタカ丸の帰路と同じ方向に用があるためにその隣を歩いていた久々知兵助――現世では久々知兵だが――が相槌を打つ。その言葉こそ突き放したような無愛想さがあるが、その表情は柔らかい。その様子は全く昔と変わらず、タカ丸は何だかひどくそれに安堵した。
「来年は、滝夜叉丸君も喜八郎君も、兵助君たちと同じ高校なんだよね」
「そうだな。今日は都合がつかなくて来られなかった三木ヱ門も、ウチの高校を受けると言っていた。まあ、あの三人なら余程のことがない限り、受かるだろう」
「……そう、だよねえ」
普段ならば明るい調子で同意するであろうタカ丸の声が暗い。それに兵がタカ丸を見やれば、タカ丸はすぐに取り繕ったように笑みを浮かべる。けれど、その表情も長くは保たれず、すぐに意気消沈した様子を見せた。
「――何かあるのか?」
「あ……いや、ううん……うーん……」
煮え切らない様子で肩を落として足を止めたタカ丸に、兵子も同じく一歩先で足を止める。少し身を捻ってタカ丸を振り返れば、タカ丸は珍しくひどく眉を下げて兵を上目遣いで見た。その視線に言葉こそ出さないままで問い返すと、タカ丸は少し言葉を選ぶように視線を泳がせたあとに口を開いた。
「……いいなあ、って」
「? どういうことだ?」
「だって。滝夜叉丸君も喜八郎君も三木ヱ門君も、みんなまた一緒なんでしょう? それなのに、俺は一緒に居られないの。それってすごく、淋しいというか……勿論、美容師になるために高校行かずに専門行くって決めたのは自分なんだけど、何か、ちょっと嫌な言い方だけど、みんなずるいなあって。――ああ、ごめん、俺今すごく馬鹿なこと言ってる。兵助君、忘れて?」
いつものような笑みを浮かべるタカ丸に、兵は呆れたように溜息をついた。――いつもどおりの表情を本人は浮かべているつもりなのだろうが、全く表情を取り繕えていない。これが本当に元忍者だろうか、と兵は己の手を持ち上げた。そのままタカ丸の顔までそれを運び、その中央にある鼻を軽く摘む。兵のその行動に驚いたタカ丸は身を引いたが、兵子はそれ以上手を伸ばすことはしないままに口を開いた。
「――方法は、ないわけじゃないだろう?」
「え?」
「同じ学校に通いたいんだろう? あんた、専門学校は今年卒業するって言ってたじゃないか。……専門から高校に行くなんて聞いたことないけど、やろうと思えばできないこともないだろう。一年後輩になったとしても、あんたにその気があるならウチの高校、受験してみれば良いじゃないか。
……昔だって髪結いの修行もしながら、忍者の修行もしてたあんただ。やろうと思えば何だってできるんじゃないのか?」
兵ははっきりとタカ丸に告げる。――そう、やろうと思えば何だってできる。そう思わなければ、現代(いま)を生きてはいられない。変わってしまった己や、未だ出会わぬ人たち。それでも希望を捨てなければ、いつかは、きっと。
それはタカ丸に告げる、というよりも、自分自身に言い聞かせている言葉だった。それを自覚した兵は、前言を撤回しようと口を開きかける。しかし、それよりも先にタカ丸が兵の両手を掴んだ。
「――間に合うかな」
「いや、今のはわすれ」
「ううん、間に合わせる! 俺、やる! 一年後じゃなくて、みんなと、滝夜叉丸君たちと一緒の学年になりたい。たとえ三年間だけでも、またみんなで一緒に過ごしたいんだもん。父さんにお願いして、何とか三年間高校生やらせてもらう!」
強く兵の手を握ったタカ丸は、はっきりとそう言葉を紡いだ。その瞳は真剣で、兵は忘れろ、と言おうとした唇を止めた。握られた手のひらは熱く、タカ丸の意志をそのまま宿しているようだ。気圧されるように半歩足を下げると、タカ丸がさらに兵へと身を乗り出した。
「兵助君、お願い! 俺を高校に入学できるようにして!」
「は……? いや、あの、私に裏口の伝手はないぞ」
「裏口入学じゃなくて! 勉強! 俺、美容師の勉強は結構頑張ってるつもりだけど、高校受験の勉強はしてないから、だから、その……勉強教えてください!」
驚いてとんちんかんなことを言う兵に、タカ丸は強い調子で首を横に振る。さらに身を乗り出して彼女へ乞う瞳は真剣で、兵は思わずその顎を引いていた。
「それは……構わないが……」
「本当!? やった、兵助君どうもありがとう! 兵助君に教えてもらったら絶対大丈夫だよ! 俺頑張るから!」
勢いよく己へ抱きついたタカ丸を受け止めきれず、兵はさらに半歩後じさる。けれどタカ丸は喜びに頭がいっぱいで彼女がよろめいたことすら気づかず、さらに兵を強く強く抱きしめた。まるで子どものようなその行為に、兵は小さく溜息をつく。そして、己の身体をぎゅうぎゅうと圧迫するタカ丸の頭を手で引きはがしながら口を開いた。
「――喜ぶのはまだ早いだろう。実際に専門卒業したあとに高校へ通えるかも分からないんだし、タカ丸さんのお父上が了承してくださるかも分からない。それに、専門学校は今年卒業でも、確か美容師の国家試験があるだろう? まずは試験に受かることが第一じゃないのか? そのために専門学校へ行ったんだろう」
「う……」
「とりあえず、ゆっくり今のことを考えて、お父上にも話してみろ。――言い出しっぺは私だし、専門卒業してから高校に入れるかどうか、ちょっと調べてみるから。もし受験できるようなら、協力は惜しまないし」
「うん、兵助君ありがとう! 俺、父さんと話してみる!」
今泣いたカラスがもう笑う、と言わんばかりにタカ丸は笑み崩れた。せっかく兵が空けた距離も構わず、再び彼女の身体を抱きしめる。背骨を圧迫する力に兵は顔をしかめたが、あまりにもタカ丸が嬉しそうにしているのでもはや小言を漏らす気も失せてしまう。まるで大きな犬に懐かれているようだ、と頭の隅で思いながら、彼女は喜びで前も周囲も見えていないタカ丸の背中を宥めるように叩いた。
| SS::記憶の先 | 23:31 | comments (x) | trackback (x) |
2011,12,28, Wednesday
随分と疲れた顔をしている、と無言でそろばんを弾く最上級生を見ながら三木ヱ門は思った。しかし、きっとそれは自分も同じだろう。もう何日寝ていないのだろうかと指折り数えようとして、虚しくなってやめた。そんな時間があるならば、一行でも多く帳簿の計算を進めるべきだ。――とくに、自分以外の下級生が沈没した今は尚更。
今の自分を鏡で見たくない、と三木ヱ門はそろばんを弾きながら溜息をついた。きっと仕事も生き甲斐も失ったうらぶれた中年のような顔をしているのだろう。学園のアイドルであるはずの自分が何ということだろう。しかし、そうは言っても目の前の帳簿計算が終わらない限り、三木ヱ門はアイドルとしての輝きなど取り戻せそうにない。次第に霞む視界を目に力を込めてやり過ごしながら、三木ヱ門は親の敵のように見えてきた帳簿に再び意識を向けたのだった。
今の自分を鏡で見たくない、と三木ヱ門はそろばんを弾きながら溜息をついた。きっと仕事も生き甲斐も失ったうらぶれた中年のような顔をしているのだろう。学園のアイドルであるはずの自分が何ということだろう。しかし、そうは言っても目の前の帳簿計算が終わらない限り、三木ヱ門はアイドルとしての輝きなど取り戻せそうにない。次第に霞む視界を目に力を込めてやり過ごしながら、三木ヱ門は親の敵のように見えてきた帳簿に再び意識を向けたのだった。
| SS::1000のお題集 | 22:55 | comments (x) | trackback (x) |
2011,12,14, Wednesday
| SS::1000のお題集 | 01:38 | comments (x) | trackback (x) |
2011,12,13, Tuesday
「母上!」
一年の金吾にそう呼ばれ、滝夜叉丸は大きな目をさらに丸くした。
低学年のころにうっかり先生や食堂のおばちゃんをそう呼んでしまうことがあるのは知っている。けれど、自分がその対象になるとは思っていなかった滝夜叉丸は、どう反応すべきか困惑して眉を下げた。第一、どうして自分がそう呼ばれるのかが理解できず、口数の多い彼にしては珍しく一瞬言葉を切る。そんな滝夜叉丸の反応に金吾は己が何を言ったかに気づき、魚のように口を開け閉めしたあと、真っ赤になって俯いてしまった。
――誰かの世話を焼くのは慣れていた。家ではどちらかと言えば世話を焼かれる側であるが、一年の頃から同室の喜八郎は少々日常生活が頼りなく、隣で見ていられずに手を出しはじめたのがそのはじまりかもしれない。さらに所属した体育委員会は自分より二つも年上のくせに滝夜叉丸よりもずっと落ち着きのない先輩が待っていた。そのうえ、翌年入学した後輩は無自覚方向音痴ときたものだ。いけどんですべてを解決しようとする小平太に後輩を任せることなどとてもできず、いつの間にか滝夜叉丸が三之助も何くれとなく面倒を見るようになった。
何かと暴走しがちな小平太を抑え、気づけば道なき道へと進む三之助を引き戻し……と立ち回っていた滝夜叉丸であるので、さらに翌年入学した後輩の面倒を見るように先輩から仰せつかるのも無理はない。滝夜叉丸自身も己の優秀さから考えて、他人の面倒を見てやることについて何ら異論もなく、いつの間にか口うるさい先輩という立場になっていた。
それならば仕方がないのかもしれない。それに、今にも泣き出しそうな顔で俯いている金吾にこれ以上何か言うことはためらわれ、滝夜叉丸は動揺を押し隠して口を開いた。
「――まあ、呼び間違えるのも仕方がない! 見目麗しく才長け、面倒見も良いこの私を一年生が母のように慕うというのも道理なのだから! 金吾、構わんぞ! 好きに私を母と呼ぶが良い!」
くるりと身を翻し、滝夜叉丸は金吾の顎を持ち上げた。それに金吾は思惑通り涙を引っ込め、苦い顔で己を見上げる。後ろで三之助が「あんな母ちゃん嫌だよ」と失礼なことを呟いたので、戦輪を打って黙らせた。――相変わらず、先輩を敬うことを知らない奴である。
もう一度自信ありげに微笑めば、金吾は今度こそ渋い顔で黙り込む。そこにはもはや滝夜叉丸を間違って母と呼んだ羞恥は微塵もなく、滝夜叉丸は内心胸を撫で下ろした。
一年の金吾にそう呼ばれ、滝夜叉丸は大きな目をさらに丸くした。
低学年のころにうっかり先生や食堂のおばちゃんをそう呼んでしまうことがあるのは知っている。けれど、自分がその対象になるとは思っていなかった滝夜叉丸は、どう反応すべきか困惑して眉を下げた。第一、どうして自分がそう呼ばれるのかが理解できず、口数の多い彼にしては珍しく一瞬言葉を切る。そんな滝夜叉丸の反応に金吾は己が何を言ったかに気づき、魚のように口を開け閉めしたあと、真っ赤になって俯いてしまった。
――誰かの世話を焼くのは慣れていた。家ではどちらかと言えば世話を焼かれる側であるが、一年の頃から同室の喜八郎は少々日常生活が頼りなく、隣で見ていられずに手を出しはじめたのがそのはじまりかもしれない。さらに所属した体育委員会は自分より二つも年上のくせに滝夜叉丸よりもずっと落ち着きのない先輩が待っていた。そのうえ、翌年入学した後輩は無自覚方向音痴ときたものだ。いけどんですべてを解決しようとする小平太に後輩を任せることなどとてもできず、いつの間にか滝夜叉丸が三之助も何くれとなく面倒を見るようになった。
何かと暴走しがちな小平太を抑え、気づけば道なき道へと進む三之助を引き戻し……と立ち回っていた滝夜叉丸であるので、さらに翌年入学した後輩の面倒を見るように先輩から仰せつかるのも無理はない。滝夜叉丸自身も己の優秀さから考えて、他人の面倒を見てやることについて何ら異論もなく、いつの間にか口うるさい先輩という立場になっていた。
それならば仕方がないのかもしれない。それに、今にも泣き出しそうな顔で俯いている金吾にこれ以上何か言うことはためらわれ、滝夜叉丸は動揺を押し隠して口を開いた。
「――まあ、呼び間違えるのも仕方がない! 見目麗しく才長け、面倒見も良いこの私を一年生が母のように慕うというのも道理なのだから! 金吾、構わんぞ! 好きに私を母と呼ぶが良い!」
くるりと身を翻し、滝夜叉丸は金吾の顎を持ち上げた。それに金吾は思惑通り涙を引っ込め、苦い顔で己を見上げる。後ろで三之助が「あんな母ちゃん嫌だよ」と失礼なことを呟いたので、戦輪を打って黙らせた。――相変わらず、先輩を敬うことを知らない奴である。
もう一度自信ありげに微笑めば、金吾は今度こそ渋い顔で黙り込む。そこにはもはや滝夜叉丸を間違って母と呼んだ羞恥は微塵もなく、滝夜叉丸は内心胸を撫で下ろした。
| SS::1000のお題集 | 20:03 | comments (x) | trackback (x) |
2011,12,07, Wednesday
「暑い」
小さく呟いた喜八郎に、滝夜叉丸は眉をひそめた。――そんなことは言われずとも分かっている。しかし、夏である以上はどうにもならないのが現状だ。
だらしなく床に伸びて再び「暑い」と呟いた喜八郎に、滝夜叉丸はもはや反応もしなかった。ただ溜息をついて、時折前髪を揺らす生温い風に身を任せる。せめてもう少し風があれば、と思ったところで己の頭上すれすれに風切り音が走った。咄嗟に首を竦めると、頭巾を掠めて踏み鋤の先端が横一文字に過ぎていく。己の頭を潰しかけたその行為に抗議しようと振り返れば、ひどく苛立った顔の喜八郎がさらに鋤で中空をないだところだった。
「こンのアホ八郎! 私のこの美しい顔を潰す気か!」
「蚊がいる」
「はあ?」
「蚊だよ、蚊。さっきから耳元をブンブンと」
そう言いながら、喜八郎はもう一度鋤を振り回す。その先を視線で辿れば、確かに小さな虫がせわしなく飛び回っていた。
「ふん、そんなもの私の戦輪で……」
滝夜叉丸は懐から取り出した戦輪を構え、指先から弧を描いてそれを飛ばす。けれど、危険を察知したのか何なのか、その小さな羽虫は滝夜叉丸の放った戦輪の刃からするりと抜け出し、再び音を立てて部屋中を飛び交った。さらに何度か試してみても結果は同じ。
それに痺れを切らしたのか、喜八郎は鋤を振り回しながら部屋を出ていこうとする。滝夜叉丸がその背にどこへ行くのかと声をかけると、彼は苛々と吐き捨てるように言葉を落とした。
「保健室。蚊遣火もらいに行ってくる」
「なるほどな。それなら、私は隣近所に話をしてくる」
蚊遣火は煙で燻すことで蚊を追い払うものだが、傍にいる人間も同じく燻されるという短所がある。この忍たま長屋で焚けば、当然ながら自分たち以外にも影響が出るだろう。それに何より、この暑いなかで勝手に火など焚けば、たちまち周囲から苦情が来るに決まっている。
それでも堪えがたい蚊の存在に、彼らは周囲を巻き込んでの徹底抗戦を決意したのだった。
小さく呟いた喜八郎に、滝夜叉丸は眉をひそめた。――そんなことは言われずとも分かっている。しかし、夏である以上はどうにもならないのが現状だ。
だらしなく床に伸びて再び「暑い」と呟いた喜八郎に、滝夜叉丸はもはや反応もしなかった。ただ溜息をついて、時折前髪を揺らす生温い風に身を任せる。せめてもう少し風があれば、と思ったところで己の頭上すれすれに風切り音が走った。咄嗟に首を竦めると、頭巾を掠めて踏み鋤の先端が横一文字に過ぎていく。己の頭を潰しかけたその行為に抗議しようと振り返れば、ひどく苛立った顔の喜八郎がさらに鋤で中空をないだところだった。
「こンのアホ八郎! 私のこの美しい顔を潰す気か!」
「蚊がいる」
「はあ?」
「蚊だよ、蚊。さっきから耳元をブンブンと」
そう言いながら、喜八郎はもう一度鋤を振り回す。その先を視線で辿れば、確かに小さな虫がせわしなく飛び回っていた。
「ふん、そんなもの私の戦輪で……」
滝夜叉丸は懐から取り出した戦輪を構え、指先から弧を描いてそれを飛ばす。けれど、危険を察知したのか何なのか、その小さな羽虫は滝夜叉丸の放った戦輪の刃からするりと抜け出し、再び音を立てて部屋中を飛び交った。さらに何度か試してみても結果は同じ。
それに痺れを切らしたのか、喜八郎は鋤を振り回しながら部屋を出ていこうとする。滝夜叉丸がその背にどこへ行くのかと声をかけると、彼は苛々と吐き捨てるように言葉を落とした。
「保健室。蚊遣火もらいに行ってくる」
「なるほどな。それなら、私は隣近所に話をしてくる」
蚊遣火は煙で燻すことで蚊を追い払うものだが、傍にいる人間も同じく燻されるという短所がある。この忍たま長屋で焚けば、当然ながら自分たち以外にも影響が出るだろう。それに何より、この暑いなかで勝手に火など焚けば、たちまち周囲から苦情が来るに決まっている。
それでも堪えがたい蚊の存在に、彼らは周囲を巻き込んでの徹底抗戦を決意したのだった。
| SS::1000のお題集 | 00:37 | comments (x) | trackback (x) |
2011,11,21, Monday
――いっそ首輪をつけたい。そう思ったのは冷たい床に押し倒されたあとだった。
古い床板は二人分の重みで少し軋む。それでも痛みが些少なのは、忍たまたちが刺などで怪我をしないよう、きちんと手入れをされているからだろう。用具委員と吉野先生、小松田さんに感謝しなければ、とどうでもよいことを考えていると、喉笛に食いつかれた。
一瞬、息が止まる。しかし、感じたのは固い歯が皮膚を食い破る痛みではなく、首筋を這う濡れた舌の熱さだった。
「余裕だな、滝夜叉丸」
「まさか。恐ろしくて声も出ませんよ」
「出ているじゃないか」
掛け合いを楽しむ小平太の顔は穏やかだが、その目は爛々と獲物を狙って光っている。今にも舌なめずりしそうな様子に、滝夜叉丸は小さく溜息をついた。
この男を飼い馴らすことができたらどれだけ楽だろうか。首輪をつけて鎖でつないで、己の命に忠実に従う獣。その考えは滝夜叉丸にとってひどく甘美に思えたが、同時にとてもつまらないものに思えた。
(――馴れないからこそ、美しいのだ)
誰にも、自分にも馴れない孤高の獣。手なづけられる程度の強さなど意味がない。常に喉笛へ食いつかれるような緊張感を覚えるような、そんな獰猛な獣でなければ。
「今度は何を考えている?」
「……貴方のことを」
滝夜叉丸は己に覆いかぶさる男の頬に手を伸ばした。それを小平太は拒まない。けれど、柔らかな手のひらに擦り寄りもしない。ただ熱を秘めた瞳を滝夜叉丸に向けるだけだ。それに滝夜叉丸はただ口の端を上げ、己を喰らい尽くそうとする男にその身体を明け渡した。
古い床板は二人分の重みで少し軋む。それでも痛みが些少なのは、忍たまたちが刺などで怪我をしないよう、きちんと手入れをされているからだろう。用具委員と吉野先生、小松田さんに感謝しなければ、とどうでもよいことを考えていると、喉笛に食いつかれた。
一瞬、息が止まる。しかし、感じたのは固い歯が皮膚を食い破る痛みではなく、首筋を這う濡れた舌の熱さだった。
「余裕だな、滝夜叉丸」
「まさか。恐ろしくて声も出ませんよ」
「出ているじゃないか」
掛け合いを楽しむ小平太の顔は穏やかだが、その目は爛々と獲物を狙って光っている。今にも舌なめずりしそうな様子に、滝夜叉丸は小さく溜息をついた。
この男を飼い馴らすことができたらどれだけ楽だろうか。首輪をつけて鎖でつないで、己の命に忠実に従う獣。その考えは滝夜叉丸にとってひどく甘美に思えたが、同時にとてもつまらないものに思えた。
(――馴れないからこそ、美しいのだ)
誰にも、自分にも馴れない孤高の獣。手なづけられる程度の強さなど意味がない。常に喉笛へ食いつかれるような緊張感を覚えるような、そんな獰猛な獣でなければ。
「今度は何を考えている?」
「……貴方のことを」
滝夜叉丸は己に覆いかぶさる男の頬に手を伸ばした。それを小平太は拒まない。けれど、柔らかな手のひらに擦り寄りもしない。ただ熱を秘めた瞳を滝夜叉丸に向けるだけだ。それに滝夜叉丸はただ口の端を上げ、己を喰らい尽くそうとする男にその身体を明け渡した。
| SS::1000のお題集 | 22:55 | comments (x) | trackback (x) |
2011,11,19, Saturday
| SS::1000のお題集 | 21:57 | comments (x) | trackback (x) |
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