2011,08,12, Friday
不破 雷(らい)は親友で、先の世ではとても大切な戦友でもあった久々知 兵(へい)と一緒に廊下を歩いていた。学園に居た時と違い、この世ではクラスも一緒の大親友だ。いつの間にか不破と久々知はセットの扱いを受けている。そのことにまるで先の世の自分と鉢屋 三郎を思い出し、雷は自分の大切な人がどこに居るのかと気付かれぬように溜め息を吐いた。
兵やタカ丸、滝や喜代(きよ)には出会ったが、肝心の三郎にだけはまだ出会えていない。この際、自分と対にならなくても良いから、ただ無事で生まれていてほしい、という気持ちだけが雷にはあった。――あんな別れを、経験した後では尚更。
もう一度だけで良い、逢いたい。そんなことを考えながら、雷は廊下を歩いていた。そのことに考えが行き過ぎていた所為だろうか、普段ではやらない大ポカをやらかしてしまう。人にぶつかったのだ。挙句、手に持っていた荷物をばらまくというおまけ付きだ。元忍でありながらなさけない、と思いつつ、雷は廊下に散らばったものを拾い上げようと慌てて屈みながら、相手に謝ろうと顔を上げた。
「――さぶ、ろう……?」
「え?」
室町時代の友人たちは皆前世の面影を持って生まれてきた。それは雷も兵も一緒で(だからこそお互いが分かったのだが)、当然それは鉢屋 三郎にも当てはまる。しかし、彼の場合は素顔を誰にも――たったひとり、恋人であった雷蔵以外――見せていなかったのだ。だから、雷の顔とは全く違うその顔を見て、反応をしたのは雷だけだった。
思わず口から零れ落ちた名前に、相手が怪訝そうに顔を上げる。訝しそうに自分を見つめて瞬きをする様子はまさしく鉢屋 三郎そのもので、雷は込み上げてくる涙を堪えることができなかった。
「え、ちょっと!? 俺、そんなに強くぶつかったか? それとも、どっか悪いとこ……?」
「あ…………あ、いえ、ごめんなさい。何でもないの。何でもないの……貴方の所為じゃないから。ごめんなさい。ただ、涙が止まらなくって……」
しかし、雷はそこで気付く。彼に自分の記憶が――先の世の記憶がないことを。それに悲しさを覚えながらも、雷は彼が今無事に目の前に居る事実を神へと感謝した。ぽろぽろと零れる涙を拭って、無理やり笑みを作る。傍らに居た兵がまじまじと三郎の顔を眺めた後、雷が立つのを支えてくれた。
「これ、あんたのだろ?」
「あ、ごめんなさい。拾ってくれて有り難う。――有り難う」
静かに涙を流しながら、雷は差し出されたノートを受け取る。それに三郎はひどく怪訝そうな顔で彼女を見つめていたが、一度首を傾げると彼女を置いて去って行った。その背中を眺めながら、兵は小さく呟く。
「あれ、本当に三郎なのか? だって、あいつ記憶……それに、あんまりにも雷に冷たすぎないか?」
「ううん、間違いないよ。三郎。――兵助、良かった。三郎、生きてた。無事に生きて、今ここに居たよ。ああ、神様有り難うございます」
雷は三郎に手渡されたノートを抱えて、ほろほろと涙を流した。兵もまた記憶がない人間が居ることは知っていたが、あの三郎が彼女の記憶を失うなんて、考えられない。それゆえにどこか猜疑を抱えたままに、彼女は遠ざかっていく三郎の背中を目を細めて見つめた。
| SS::記憶の先 | 02:23 | comments (x) | trackback (x) |
2011,08,12, Friday
「……食満先輩!?」
「――ってお前、平 滝夜叉丸か!?」
中学の文化祭ですれ違った男の顔に見覚えがあり、滝は思わず悲鳴じみた声を上げた。中学最後の文化祭でまさかの出会いがあり、滝は思わず期待する。――もしかしたら、あの人も、と。
それを食満も感じたのだろう、彼はひどく難しい顔で彼女を見やった。それと同時に彼女たちの後ろから声がかかる。
「ちょっと、留さん! ひどいよ、先に行くなんてー! はぐれちゃったらどうすんのさ!」
「あ……善法寺、先輩?」
「へ? あ、やだ、嘘! 滝夜叉丸だ!」
「……今は平 滝(たき)ですよ、先輩」
「僕――いや、私も今は伊緒(いお)なんだよね」
聞き覚えのある声よりも幾分高い声に滝は微笑みながらも、人ごみを掻き分けて現れた女性に視線を移す。そこに居たのはやはり見覚えのある――先の世で二級上の先輩として彼女と過ごした善法寺 伊作の姿があった。明らかに自分と同じく柔らかさを帯びる身体付きに、彼女は笑う。
「変わりませんね、先輩も」
「そういう滝もね。――あ、そうだ。滝、小平太のことなんだけど……」
「え?」
無意識に周囲を探していた意識が、伊緒の発言によって彼女に集中する。その集中を遮るかのように、二人の間に大声が割って入った。
「おーい、伊緒、留三郎ー!」
この声は、と思うよりも早くに身体が反応した。身体ごと振り向いて、その人物を確認する。人ごみを掻き分けて近づいてくるその姿に、滝は声も出なかった。
「小平太、静かにしろよ。迷惑だろ」
「そっちが先行っちゃうのが悪いんじゃん。――あれ、この美人誰? 二人の知り合い?」
再び逢えたという喜びと同時に、絶望を滝は覚えた。――ああ、この人も覚えていないのか、と頭の隅で呟く。幼い頃に藤内を見つけた時の三之助の絶望が、今更ながらに身に沁みて分かった。泣きそうになる自分を叱咤し、滝は自分を興味津々で見つめる小平太に笑顔を向ける。
「……食満先輩と善法寺先輩のお友達の方ですか? 私、以前お二人にお世話になった後輩で、平 滝と申します」
「へえ! 二人にこんな美人な後輩が居るなんてねえ……! あ、俺は七松 小平太って言うんだ。宜しくね」
知ってます、という言葉は飲み込んだ。懐かしい笑みを向ける小平太に、滝は必死で笑みを向けた。動揺するな、こういうこともあると分かっていたはずだろう、と自分に言い聞かせて、彼女はぐらぐら揺れる大地を必死で踏み締める。笑みがひきつっているのは自分でも分かっていたが、彼女にはこれ以上どうにもできなかった。
「小平太、私たち久しぶりに偶然滝と会ってさ。まだ少し話したいから、少しひとりで回っててくれない? 後で連絡するから」
「ん? おお、分かった。じゃな」
「後でね」
伊緒が気を利かせて、小平太を遠ざけてくれた。それと同時に滝の笑みが顔から消える。どうして良いか分からない、まるで迷子の子どものような表情を浮かべた滝に、伊緒が彼女の頭を抱える。
「ごめんね、先に言えなくて……。あの、小平太は」
「いえ、分かります。私も、似た経験をしたので……藤内が、同じでして」
「藤内が! そっか、そうだよね……やっぱり、皆一緒ってわけには、いかないよね」
泣きそうな顔で笑う伊緒に、つられたように滝も笑った。同じような顔で笑う二人を、苦い顔をした食満が頭を撫でる。それに滝は困ったように笑った後、少しためらって口を開いた。
「……他の方は?」
「僕らの学年はね、全部集まったよ。――小平太以外は、全員覚えてた」
「私の方は同学年と、三之助、藤内、孫兵です。一級下は三之助が少しずつ集めていますし、一級上の久々知先輩と不破先輩も見つかりました。藤内以外は皆覚えています」
お互いにそこまで報告して、小さく溜め息を吐いた。
「……覚えている僕たちの方が、きっと異常なんだろうけど。でも」
「ええ、分かっています。――それでも、望むのはきっと我儘なのでしょう。それに、今の彼らに昔の彼らを求めることも。……同じようで、違う存在なのだから」
諦めたように笑う滝に、食満が尚更強く頭を撫でた。普段ならば髪が乱れると振り払うであろうその手を、今の滝は享受する。伏せた瞳から、一滴だけ堪えていた涙が零れた。
| SS::記憶の先 | 02:22 | comments (x) | trackback (x) |
2011,08,12, Friday
【大前提】
・輪廻転生ものなので、前世(室町)の記憶がある→前世は当サイト設定(の方が色々都合が良い)
・年齢差は室町と変わらない
・現代に生まれ変わった忍たまたちは、前世とは違い、あちこちのエリアに分散して生活している(なので、幼馴染だったり小中高で再会したりとつながりが様々)
・管理人の趣味により、当然のように女体化しているキャラが居る
・前世の記憶があるキャラと、ないキャラが居る(ここ重要)
・基本的には室町の死ネタ含む
女体化キャラ>
平滝夜叉丸、綾部喜八郎、久々知兵助、不破雷蔵、善法寺伊作、潮江文次郎、伊賀崎孫兵、神崎左門、三反田数馬、時友四郎兵衛、二郭伊助、皆本金吾、摂津のきり丸、鶴町伏木蔵……以上増減あり
前世の記憶がないキャラ>
七松小平太、鉢屋三郎、竹谷八左ヱ門、浦風藤内……現時点ではこの辺り
前世CP>
こへ滝・くく綾・鉢雷・竹孫・次浦・留伊・土井きり
現世CP>
こへ滝・タカくく・鉢雷・竹孫・浦←次←時(後に浦綾・次時)・仙文・留伊・三木さも・土井きり・さこふし・庄伊
・輪廻転生ものなので、前世(室町)の記憶がある→前世は当サイト設定(の方が色々都合が良い)
・年齢差は室町と変わらない
・現代に生まれ変わった忍たまたちは、前世とは違い、あちこちのエリアに分散して生活している(なので、幼馴染だったり小中高で再会したりとつながりが様々)
・管理人の趣味により、当然のように女体化しているキャラが居る
・前世の記憶があるキャラと、ないキャラが居る(ここ重要)
・基本的には室町の死ネタ含む
女体化キャラ>
平滝夜叉丸、綾部喜八郎、久々知兵助、不破雷蔵、善法寺伊作、潮江文次郎、伊賀崎孫兵、神崎左門、三反田数馬、時友四郎兵衛、二郭伊助、皆本金吾、摂津のきり丸、鶴町伏木蔵……以上増減あり
前世の記憶がないキャラ>
七松小平太、鉢屋三郎、竹谷八左ヱ門、浦風藤内……現時点ではこの辺り
前世CP>
こへ滝・くく綾・鉢雷・竹孫・次浦・留伊・土井きり
現世CP>
こへ滝・タカくく・鉢雷・竹孫・浦←次←時(後に浦綾・次時)・仙文・留伊・三木さも・土井きり・さこふし・庄伊
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