2011,11,21, Monday
――いっそ首輪をつけたい。そう思ったのは冷たい床に押し倒されたあとだった。
古い床板は二人分の重みで少し軋む。それでも痛みが些少なのは、忍たまたちが刺などで怪我をしないよう、きちんと手入れをされているからだろう。用具委員と吉野先生、小松田さんに感謝しなければ、とどうでもよいことを考えていると、喉笛に食いつかれた。
一瞬、息が止まる。しかし、感じたのは固い歯が皮膚を食い破る痛みではなく、首筋を這う濡れた舌の熱さだった。
「余裕だな、滝夜叉丸」
「まさか。恐ろしくて声も出ませんよ」
「出ているじゃないか」
掛け合いを楽しむ小平太の顔は穏やかだが、その目は爛々と獲物を狙って光っている。今にも舌なめずりしそうな様子に、滝夜叉丸は小さく溜息をついた。
この男を飼い馴らすことができたらどれだけ楽だろうか。首輪をつけて鎖でつないで、己の命に忠実に従う獣。その考えは滝夜叉丸にとってひどく甘美に思えたが、同時にとてもつまらないものに思えた。
(――馴れないからこそ、美しいのだ)
誰にも、自分にも馴れない孤高の獣。手なづけられる程度の強さなど意味がない。常に喉笛へ食いつかれるような緊張感を覚えるような、そんな獰猛な獣でなければ。
「今度は何を考えている?」
「……貴方のことを」
滝夜叉丸は己に覆いかぶさる男の頬に手を伸ばした。それを小平太は拒まない。けれど、柔らかな手のひらに擦り寄りもしない。ただ熱を秘めた瞳を滝夜叉丸に向けるだけだ。それに滝夜叉丸はただ口の端を上げ、己を喰らい尽くそうとする男にその身体を明け渡した。
古い床板は二人分の重みで少し軋む。それでも痛みが些少なのは、忍たまたちが刺などで怪我をしないよう、きちんと手入れをされているからだろう。用具委員と吉野先生、小松田さんに感謝しなければ、とどうでもよいことを考えていると、喉笛に食いつかれた。
一瞬、息が止まる。しかし、感じたのは固い歯が皮膚を食い破る痛みではなく、首筋を這う濡れた舌の熱さだった。
「余裕だな、滝夜叉丸」
「まさか。恐ろしくて声も出ませんよ」
「出ているじゃないか」
掛け合いを楽しむ小平太の顔は穏やかだが、その目は爛々と獲物を狙って光っている。今にも舌なめずりしそうな様子に、滝夜叉丸は小さく溜息をついた。
この男を飼い馴らすことができたらどれだけ楽だろうか。首輪をつけて鎖でつないで、己の命に忠実に従う獣。その考えは滝夜叉丸にとってひどく甘美に思えたが、同時にとてもつまらないものに思えた。
(――馴れないからこそ、美しいのだ)
誰にも、自分にも馴れない孤高の獣。手なづけられる程度の強さなど意味がない。常に喉笛へ食いつかれるような緊張感を覚えるような、そんな獰猛な獣でなければ。
「今度は何を考えている?」
「……貴方のことを」
滝夜叉丸は己に覆いかぶさる男の頬に手を伸ばした。それを小平太は拒まない。けれど、柔らかな手のひらに擦り寄りもしない。ただ熱を秘めた瞳を滝夜叉丸に向けるだけだ。それに滝夜叉丸はただ口の端を上げ、己を喰らい尽くそうとする男にその身体を明け渡した。
| SS::1000のお題集 | 22:55 | comments (x) | trackback (x) |
2011,11,20, Sunday
というほどではありませんが、一週間ほど消えておりました。主に私生活が大変で……というと何かリア充っぽいですが、全然そんなことはなかったです(´・ω・`)<リア充になりてえええ!
十忍で配布した零〜紅い蝶〜パロはPixivに上げました。もしかしたら時々こっそり増やすかもしれません。サイトにも多分、いずれログとして上げると思いますが、多分時間に余裕が出る来月くらいになってしまうと思います。今週末は友達を動員しての大掃除です。本棚大きいの買いました! これに同人誌も蔵書も全部ぶっ込みます……! 押し入れにしまい込んでいつでも取り出すことのできなかった萌えたちをすぐ傍に!(`・ω・´)キリッ
身辺整理が終わったら(これある意味凄い嫌な言い方だなw)、少し落ち着いてイロイロ原稿に取りかかりたいなあ、と思っております。いろいろ放置しているあれやこれやとかね……毎度言ってますけどね……本当にそろそろね……平安も新しい何か書きたいですしね。次は何だろう……流れからいけば鉢雷ですが、もしかしたら先にくくタカか綾三木が入るかもしれません。利こまはもうちょっと先かな……書けると良いなあ。竹孫♀の室町連載とか、タカくく♀で別設定の室町とか、やりたいことはいっぱいありますが、わたしの夢はネタ本を全力でシリアスなので、いつか絶対仮面ライダー102(トーフ)を書きたいと思います。謎の美女DENKOの美脚について語り尽くしたいよ……! 峰不二子みたいなライダースーツを身にまとい、フルフェイスのヘルメットをかぶって、颯爽と仮面ライダートーフのピンチに駆けつけるんですよ。この武器を使いなさい! って新しい武器を投げて寄越してくれたり、仮面ライダートーフが苦戦してたりすると素晴らしいバイクテクと見事な体術で仮面ライダートーフをアシストしてくれるんです。伝子ー! 俺だー結婚してくれ−!(勝手に盛り上がる)
いつか仮面ライダー102本がSPに並んでいたら、そっと生温い目で見てやってください。
十忍で配布した零〜紅い蝶〜パロはPixivに上げました。もしかしたら時々こっそり増やすかもしれません。サイトにも多分、いずれログとして上げると思いますが、多分時間に余裕が出る来月くらいになってしまうと思います。今週末は友達を動員しての大掃除です。本棚大きいの買いました! これに同人誌も蔵書も全部ぶっ込みます……! 押し入れにしまい込んでいつでも取り出すことのできなかった萌えたちをすぐ傍に!(`・ω・´)キリッ
身辺整理が終わったら(これある意味凄い嫌な言い方だなw)、少し落ち着いてイロイロ原稿に取りかかりたいなあ、と思っております。いろいろ放置しているあれやこれやとかね……毎度言ってますけどね……本当にそろそろね……平安も新しい何か書きたいですしね。次は何だろう……流れからいけば鉢雷ですが、もしかしたら先にくくタカか綾三木が入るかもしれません。利こまはもうちょっと先かな……書けると良いなあ。竹孫♀の室町連載とか、タカくく♀で別設定の室町とか、やりたいことはいっぱいありますが、わたしの夢はネタ本を全力でシリアスなので、いつか絶対仮面ライダー102(トーフ)を書きたいと思います。謎の美女DENKOの美脚について語り尽くしたいよ……! 峰不二子みたいなライダースーツを身にまとい、フルフェイスのヘルメットをかぶって、颯爽と仮面ライダートーフのピンチに駆けつけるんですよ。この武器を使いなさい! って新しい武器を投げて寄越してくれたり、仮面ライダートーフが苦戦してたりすると素晴らしいバイクテクと見事な体術で仮面ライダートーフをアシストしてくれるんです。伝子ー! 俺だー結婚してくれ−!(勝手に盛り上がる)
いつか仮面ライダー102本がSPに並んでいたら、そっと生温い目で見てやってください。
| 戯言 | 23:31 | comments (x) | trackback (x) |
2011,11,19, Saturday
| SS::1000のお題集 | 21:57 | comments (x) | trackback (x) |
2011,11,13, Sunday
お陰さまで、今回も無事に終わりました! これで今年の直参イベントは全て終了です!
次は来年の夏、かな? 受かれば、ですがw 今日もちょっとぼーっとし気味で失礼いたしました。ちょっと寝不足でした。寝たんですけどね……(´・ω・`)
差し入れやお声がけもありがとうございます。いつも何か反応が鈍くてすみません……次こそきりっとした緋緒でお会いしたいです!(`・ω・´)
そして、今回のイベントで「焔」が頒布終了となりました。みなさま、本当にありがとうございました。
初めての文庫サイズでいろいろ反省やら何やらもあったのですが、文庫サイズって言うのはやっぱり憧れだったので思い出深い作品です。いずれまた文庫サイズ挑戦してみたいと思います。そのときはどうぞよろしくお願いいたします。
そして、新刊というか自己満足ペーパーが出ました。今思えば、ほぼタカくくでしたw そして、16Pになってもペーパーと言い張るよ!
零は本当に良いホラーなんですが、操作が難しいせいと美しいけどめっちゃ怖いせいであんまり広がりません……(´・ω・`) とはいえ、何人かの方がお持ちくださったようで、是非その方々が零に目覚めてくれることを祈っています。紅い蝶はホラーの皮を被った双子百合ゲーだよ!
ペーパーについては、通販に入れるかどうか迷っています。また書きたくなると困るので、Pixivでシリーズとして公開するかもしれません。明日荷物が届いてからまた考えます。あまりにもマニアックすぎるので、公開するにも少しためらいはあるのですが。公開することになったら、リンクでPixivのページも繋ぎますね。そのときはPixivユーザーの方はどうぞよろしくお願いいたします。
次は来年の夏、かな? 受かれば、ですがw 今日もちょっとぼーっとし気味で失礼いたしました。ちょっと寝不足でした。寝たんですけどね……(´・ω・`)
差し入れやお声がけもありがとうございます。いつも何か反応が鈍くてすみません……次こそきりっとした緋緒でお会いしたいです!(`・ω・´)
そして、今回のイベントで「焔」が頒布終了となりました。みなさま、本当にありがとうございました。
初めての文庫サイズでいろいろ反省やら何やらもあったのですが、文庫サイズって言うのはやっぱり憧れだったので思い出深い作品です。いずれまた文庫サイズ挑戦してみたいと思います。そのときはどうぞよろしくお願いいたします。
そして、新刊というか自己満足ペーパーが出ました。今思えば、ほぼタカくくでしたw そして、16Pになってもペーパーと言い張るよ!
零は本当に良いホラーなんですが、操作が難しいせいと美しいけどめっちゃ怖いせいであんまり広がりません……(´・ω・`) とはいえ、何人かの方がお持ちくださったようで、是非その方々が零に目覚めてくれることを祈っています。紅い蝶はホラーの皮を被った双子百合ゲーだよ!
ペーパーについては、通販に入れるかどうか迷っています。また書きたくなると困るので、Pixivでシリーズとして公開するかもしれません。明日荷物が届いてからまた考えます。あまりにもマニアックすぎるので、公開するにも少しためらいはあるのですが。公開することになったら、リンクでPixivのページも繋ぎますね。そのときはPixivユーザーの方はどうぞよろしくお願いいたします。
| 戯言 | 21:07 | comments (x) | trackback (x) |
2011,11,12, Saturday
いつの間にか前日とか\(^o^)/ 月日が経つのは早いですね……どういうことなの……?(;´Д`)
そんな感じで、明日の詳細です。
サークル名:鈍行
サークルSP:お-21、22
【新刊】
・零〜紅い蝶〜パロペーパー 4い、5い、鉢雷、タカ→くく、設定だけ竹雷/A5/無料配布/16P/コピー
【既刊】
・たゆたう夢(R-18) タカくく♀→竹孫♀現代パロ(「やさしい闇」・「おぼれる熱」続編)/A5/200円/24P/コピー
・からくれなゐに水くくる(R-18) こへ滝♀近代パロ(つねならむ合同誌)/A5/400円/34P/オンデマンド/2011.09.25
・うつくしい世界 竹孫年齢操作/A5/400円/44P/オンデマンド/2011.09.25
・おぼれる熱(R-18) タカくく♀→竹孫♀現代パロ(「やさしい闇」続編)/A5/200円/24P/コピー/2011.09.25
・いにしへの物語〜東雲の道〜(R-18) こへ滝♀平安パロWeb再録/A5/1500円/156P/オンデマンド/2011.05.03再版
初版との交換を当イベントでも承ります。詳しくはこちらをご覧ください。お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。
・昏冥(R-18) こへ滝/A5/400円/36P/オンデマンド/2010.10.10
・the Man in the Moon. 鉢雷♀オペラ座の怪人パロ/A5/800円/72P/オンデマンド/2010.09.05
・焔(R-18) こへ滝♀/文庫/600円/136P/オンデマンド/2010.06.27
・かけら こへ滝♀(つねならむ合同誌)/A5/500円/48P/オンデマンド/2010.10.10
・命みじかし、恋せよ乙女! こへ滝♀(つねならむ合同誌)/A5/400円/36P/2010.03.21
詳しい内容に関してはOFFLINEをご覧ください。
また、前回と同様、今回もこへ滝♀平安本の交換を承っております。初版をお持ちの方で明日会場までおいでの方は、お手荷物、ご足労にはなりますが、是非初版をお持ちのうえ当SPまで足をお運びいただけますと幸いです。ご迷惑をおかけいたしておりますが、宜しくお願いいたします。
なお、年齢制限のある頒布物をお求めの方には全員に年齢確認をさせていただきます。お手数ですが、身分証明書をお持ちくださいますようお願い申し上げます。身分証明書をご提示いただけない場合、頒布をお断りする場合がございますのでご了解くださいませ。
しかし、ペーパーを作るはずが、なぜか小冊子になっていたという不思議な出来事が起こりました……どういうことなの……?(; ・`д・´)
とりあえず、ネタというか誰を誰に当てはめるかという妄想と、さらにSSを数本突っ込んであります。自己満足万歳!!ヽ(・∀・ )ノ キャッ キャッ 本当はもっとSSとかネタとか入れたかったけど、ページと時間の関係で無理だった。CPもいろいろありますw 地雷しかないwww あ、でもアレです。「零〜紅い蝶〜」は本当に良いゲームなので、ホラーOKな方は是非プレイしてみてください。ちなみにわたしはまだ最初のほうで詰んでます……操作が難しいよ、あれ……(´・ω・`)
個人的には千歳=タカ丸が最大の冒険でした……ちーちゃんかわいいよちーちゃん。「お兄ちゃんを返せ……!」って襲ってくるんですけど、本当にあの子はもう怖いけどかわいい……! どうでもいいですが、わたしはSIRENもクロックタワーも好きです。細かい操作が苦手なので上手くないですが、ホラー本当に大好き。ストーリーが好き。怖切ないのがいい!
零好きの方でイベントにいらっしゃる方は、是非僕と握手!(´∀`*)
わたしは開始から昼頃まではスペースにいます。昼頃から30分くらい、SPを友人に任せて離れるかと思いますが、それ以外はほぼスペースにおります。今日は寝る予定なので、ちゃんと閉場までいられると思います(こら)。はー本当に楽しみだなあ……! これで年内最後のイベントなので、精一杯楽しみたいと思います。
では、当日会場に来られる方は、どうぞよろしくお願いいたします〜!ノシ
そんな感じで、明日の詳細です。
サークル名:鈍行
サークルSP:お-21、22
【新刊】
・零〜紅い蝶〜パロペーパー 4い、5い、鉢雷、タカ→くく、設定だけ竹雷/A5/無料配布/16P/コピー
【既刊】
・たゆたう夢(R-18) タカくく♀→竹孫♀現代パロ(「やさしい闇」・「おぼれる熱」続編)/A5/200円/24P/コピー
・からくれなゐに水くくる(R-18) こへ滝♀近代パロ(つねならむ合同誌)/A5/400円/34P/オンデマンド/2011.09.25
・うつくしい世界 竹孫年齢操作/A5/400円/44P/オンデマンド/2011.09.25
・おぼれる熱(R-18) タカくく♀→竹孫♀現代パロ(「やさしい闇」続編)/A5/200円/24P/コピー/2011.09.25
・いにしへの物語〜東雲の道〜(R-18) こへ滝♀平安パロWeb再録/A5/1500円/156P/オンデマンド/2011.05.03再版
初版との交換を当イベントでも承ります。詳しくはこちらをご覧ください。お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。
・昏冥(R-18) こへ滝/A5/400円/36P/オンデマンド/2010.10.10
・the Man in the Moon. 鉢雷♀オペラ座の怪人パロ/A5/800円/72P/オンデマンド/2010.09.05
・焔(R-18) こへ滝♀/文庫/600円/136P/オンデマンド/2010.06.27
・かけら こへ滝♀(つねならむ合同誌)/A5/500円/48P/オンデマンド/2010.10.10
・命みじかし、恋せよ乙女! こへ滝♀(つねならむ合同誌)/A5/400円/36P/2010.03.21
詳しい内容に関してはOFFLINEをご覧ください。
また、前回と同様、今回もこへ滝♀平安本の交換を承っております。初版をお持ちの方で明日会場までおいでの方は、お手荷物、ご足労にはなりますが、是非初版をお持ちのうえ当SPまで足をお運びいただけますと幸いです。ご迷惑をおかけいたしておりますが、宜しくお願いいたします。
なお、年齢制限のある頒布物をお求めの方には全員に年齢確認をさせていただきます。お手数ですが、身分証明書をお持ちくださいますようお願い申し上げます。身分証明書をご提示いただけない場合、頒布をお断りする場合がございますのでご了解くださいませ。
しかし、ペーパーを作るはずが、なぜか小冊子になっていたという不思議な出来事が起こりました……どういうことなの……?(; ・`д・´)
とりあえず、ネタというか誰を誰に当てはめるかという妄想と、さらにSSを数本突っ込んであります。自己満足万歳!!ヽ(・∀・ )ノ キャッ キャッ 本当はもっとSSとかネタとか入れたかったけど、ページと時間の関係で無理だった。CPもいろいろありますw 地雷しかないwww あ、でもアレです。「零〜紅い蝶〜」は本当に良いゲームなので、ホラーOKな方は是非プレイしてみてください。ちなみにわたしはまだ最初のほうで詰んでます……操作が難しいよ、あれ……(´・ω・`)
個人的には千歳=タカ丸が最大の冒険でした……ちーちゃんかわいいよちーちゃん。「お兄ちゃんを返せ……!」って襲ってくるんですけど、本当にあの子はもう怖いけどかわいい……! どうでもいいですが、わたしはSIRENもクロックタワーも好きです。細かい操作が苦手なので上手くないですが、ホラー本当に大好き。ストーリーが好き。怖切ないのがいい!
零好きの方でイベントにいらっしゃる方は、是非僕と握手!(´∀`*)
わたしは開始から昼頃まではスペースにいます。昼頃から30分くらい、SPを友人に任せて離れるかと思いますが、それ以外はほぼスペースにおります。今日は寝る予定なので、ちゃんと閉場までいられると思います(こら)。はー本当に楽しみだなあ……! これで年内最後のイベントなので、精一杯楽しみたいと思います。
では、当日会場に来られる方は、どうぞよろしくお願いいたします〜!ノシ
| 連絡事項 | 21:19 | comments (x) | trackback (x) |
2011,11,05, Saturday
「……分かっていましたが、多分風邪ですね」
冷たい視線とともに呟いた一回りも年下の少女に、タカ丸は気圧されるように首を竦めた。もはや、どうして家にいるとは問わない。――それもそのはず、店を閉めた瞬間に床へ崩れ落ちたタカ丸を抱き留め、閉店作業をほかのスタッフに任せ、熱と眩暈で立ち上がれないタカ丸を支えてこの家まで連れてきてくれたのは彼女なのだから。その細い体躯のどこにそんな力があるのか、と思うほど安定した力でタカ丸を支えながらこの家までやってきた兵子は、タカ丸に手洗いうがいだけきっちりさせると、上着とベルトだけを剥いでベッドへと彼を突っ込んだ。
テーブルの上に放ったらかしの薬に顔をしかめた彼女は、明らかに何かを言いたげな様子でタカ丸をねめつける。タカ丸はそれに何か言い訳しようと口を開いたが、声よりも先に咳が飛び出したせいで尚更兵子に睨みつけられた。
「保険証、どこですか?」
「財布のなか、だけど……病院、もうやってないでしょう?」
「夜間診療の病院があるはずです。調べますから、病院に行く準備をしてください」
普段は人前でいじることのない携帯を取り出しながら、兵子はタカ丸に吐き捨てる。珍しく彼の前で苛々した様子を見せる兵子に、タカ丸は瞬きをしたあとに口を開いた。
「大丈夫だよ、薬飲んで寝たら治るって……明日は仕事の途中でちゃんと病院に行くから」
「自分ひとりで立ち上がれないほど重症なのに、一晩寝ただけで治るわけないでしょう。第一、貴方の頼りにしている当の薬だって、もはや咳止め程度にしかなっていないようですが」
半分は優しさで出来ている、というお馴染みのフレーズの市販薬は、兵子の威圧感からか、急に存在を萎れさせる。今朝までは実に頼りがいのありそうだった佇まいは、もはや風前の灯のような頼りなさだ。それにタカ丸が眉を下げると、溜息をついた兵子が少しばかり穏やかな調子で口を開いた。
「……風邪を甘く見てはいけません。こじらせれば死ぬことだって充分あるんです。ましてや、風邪に似た症状の別の病気だったらどうするんですか? そういうのをちゃんと調べてもらうために病院に行くんですよ」
兵子の言葉は端々に不安が覗いている。それに彼が考えを巡らせるより早く、彼女がタカ丸を強い視線で射抜いた。
「病院見つかりましたから、タクシー呼びますよ」
「あ、じゃあ兵子ちゃんはそろそろ」
帰って、という言葉は、彼女の怒りに満ちた視線で止められる。むしろその視線で症状が悪化しそうだ。思わず再び布団に顔を隠すと、兵子は小さく溜息をついた。
「そんな状態でひとりで出歩けるわけないでしょう」
「だけど、もう遅いし。早く帰らないと終電が」
「そんなことはどうでもいいんです。どっちにしろ今晩貴方の看病をする人間が必要でしょう。それにいざとなれば野宿だってできますから」
「なっ……! だから、そういうこと言わな――ゲホッゴホッ」
妙齢の女性にあるまじき発言を咎めようとしたタカ丸であるが、その言葉は込み上げてきた咳によって阻まれる。さらに飛び出す咳に背中を丸めると、温かい手がその背中をさすった。
「ほら、そんなに咳をして。水分取って大人しくしていてください」
「誰のせいでむせたと……」
しかし、その呟きに兵子が応えることはない。彼女は常と同じテキパキとした様子でタクシーの手配をすると、水を入れたコップをタカ丸へと運んできた。そのままタカ丸の寝ているベッドに腰を下ろした兵子であるが、その様子は常にもまして大人しい。顔色もよく見れば冴えなく、タカ丸は自分の風邪を感染したかと少しばかり不安になったが、ベッドに置かれた拳が真っ白になるほど握られているのを見て、彼は少しだけ目を眇めた。
(――これは、恐怖だ)
普段はどんなに怖いものを見ても怯える様子など欠片たりとも見せない少女が、なぜか今、こうして怯えている。それにタカ丸が疑問を覚えて拳から流れるように視線を彼女の顔へと移動させると、少女はひどく張り詰めた表情で真っ直ぐ何もない空間を見つめていた。噛みしめられた唇が白くなっている。ああ、それでは噛みきってしまう、とタカ丸が思わず彼女の拳に手を触れると、弾かれたように兵子が彼を振り返った。
「どうしましたか? 水分を取りますか? それとも汗を掻いた?」
「違うよ……」
先程の感情をすぐに隠して己へと向き直る少女に、タカ丸はそれ以上何も言えなかった。――先程垣間見えた表情が嘘のように、今の彼女はいつもどおりなのだ。まるで先程の表情が自分こそが不安だったから見えたような気すらしてくる。けれど、タカ丸に触れられた手はひどく冷たく、それが兵子の緊張を伝えていた。
「――タクシー、そろそろ来る時間ですね。タカ丸さん、辛いでしょうが起きて支度してください。外で待ちましょう」
「うん……」
何かを言おうと思うものの、何を言って良いのかも分からずにタカ丸は兵子に促されるままベッドから立ち上がる。眩暈と熱でふらつく身体を持て余せば、タカ丸の上着を持ってきた兵子が彼にそれを着せながらその身体を支えてくれた。その力強さはいつもと全く変わらないのに、兵子の身体はどこか小さい。自分よりも一回りも下の少女を小さいと思うことなど当たり前のはずなのだが、その細い体躯から感じられる不安にタカ丸は思わず腕を伸ばしていた。
「――大丈夫、俺本当に大したことないんだよ。だからね、心配しないで」
「そんな風に熱でふらふらしている人の言うことなど信用できません。……ほら、行きましょう」
抱きしめた少女はタカ丸の言葉に大きく身体を震わせたが、それがどんな感情から来るものかタカ丸には分からなかった。けれど、先程より少しばかり柔らかくなった兵子の雰囲気にタカ丸は内心で胸を撫で下ろし、己を促す少女の手が少しだけ温かくなっていることに少しだけ微笑んだ。
「病院へはひとりで行けるから、兵子ちゃんはもうお家へ帰りなさい。――毎度毎度、こんな風に遅かったんじゃお母さんもお父さんも心配するでしょう」
「母はタカ丸さんのところにいると知っているから大丈夫です。父は単身赴任でいないですし」
「明日も学校でしょう」
「少し夜更かししたくらいでは大した影響もありません」
しかし、安堵したのも束の間、彼女はやはり頑固だった。もう十七の女の子が出歩くには宜しくない時間帯であるのに、彼女はタカ丸の言うことに一向に頷くことはない。それにタカ丸が思わず溜息をつくと、兵子は少しだけタカ丸の上着を強く握って、小さく小さく呟いた。
「――病院の診察をちゃんと受けて、ただの風邪だって分かったら帰りますから」
「さすがにここまでされて逃げないよ……俺どこまで信用ないの」
「そうじゃなくて……」
何かを言いかけた兵子であるが、マンションのエントランスまで出たところでタクシーが待機しているのに気づき、それ以上の言葉を発することはなかった。タカ丸を支えてタクシーへと近寄り、運転手と二、三話をしてから開いたドアにタカ丸を押し込む。その隣に自分も乗り込んだところで彼女は運転手に行き先を告げ、車を発進させた。動き出した車の振動が身体に響き、少しだけ辛い。それに気づいたのか、兵子がタカ丸の身体を己へと寄りかからせた。
「一番楽な姿勢取ってください。病院まで少しかかりますから」
「うー……ごめん」
さすがにもう見栄を張ることもできず、タカ丸はその細い身体に身を寄せる。膝枕をされるような形になったタカ丸の手を、兵子の手が握った。先程よりもずっと温かくなったそれを思わず握り返すと、優しく宥めるようにタカ丸の頭が撫でられる。自分は一回りも年上なのに、と思いながらも、タカ丸はまるで子どもにするようなその行為の優しさに引き込まれるように、まどろみのなかに身を委ねたのだった。――その頭の隅で考えるのは、今自分を支えている少女のこと。たった十七の、最近まで見ず知らずの少女がここまで自分に入れ込む理由と、そしてあまりにも歳にそぐわぬ態度や知識をタカ丸は不思議に思う。けれど、その考えはすぐにまどろみのなかに消え、タカ丸は傍らの心地よい温もりに己の身を預けたのだった。
冷たい視線とともに呟いた一回りも年下の少女に、タカ丸は気圧されるように首を竦めた。もはや、どうして家にいるとは問わない。――それもそのはず、店を閉めた瞬間に床へ崩れ落ちたタカ丸を抱き留め、閉店作業をほかのスタッフに任せ、熱と眩暈で立ち上がれないタカ丸を支えてこの家まで連れてきてくれたのは彼女なのだから。その細い体躯のどこにそんな力があるのか、と思うほど安定した力でタカ丸を支えながらこの家までやってきた兵子は、タカ丸に手洗いうがいだけきっちりさせると、上着とベルトだけを剥いでベッドへと彼を突っ込んだ。
テーブルの上に放ったらかしの薬に顔をしかめた彼女は、明らかに何かを言いたげな様子でタカ丸をねめつける。タカ丸はそれに何か言い訳しようと口を開いたが、声よりも先に咳が飛び出したせいで尚更兵子に睨みつけられた。
「保険証、どこですか?」
「財布のなか、だけど……病院、もうやってないでしょう?」
「夜間診療の病院があるはずです。調べますから、病院に行く準備をしてください」
普段は人前でいじることのない携帯を取り出しながら、兵子はタカ丸に吐き捨てる。珍しく彼の前で苛々した様子を見せる兵子に、タカ丸は瞬きをしたあとに口を開いた。
「大丈夫だよ、薬飲んで寝たら治るって……明日は仕事の途中でちゃんと病院に行くから」
「自分ひとりで立ち上がれないほど重症なのに、一晩寝ただけで治るわけないでしょう。第一、貴方の頼りにしている当の薬だって、もはや咳止め程度にしかなっていないようですが」
半分は優しさで出来ている、というお馴染みのフレーズの市販薬は、兵子の威圧感からか、急に存在を萎れさせる。今朝までは実に頼りがいのありそうだった佇まいは、もはや風前の灯のような頼りなさだ。それにタカ丸が眉を下げると、溜息をついた兵子が少しばかり穏やかな調子で口を開いた。
「……風邪を甘く見てはいけません。こじらせれば死ぬことだって充分あるんです。ましてや、風邪に似た症状の別の病気だったらどうするんですか? そういうのをちゃんと調べてもらうために病院に行くんですよ」
兵子の言葉は端々に不安が覗いている。それに彼が考えを巡らせるより早く、彼女がタカ丸を強い視線で射抜いた。
「病院見つかりましたから、タクシー呼びますよ」
「あ、じゃあ兵子ちゃんはそろそろ」
帰って、という言葉は、彼女の怒りに満ちた視線で止められる。むしろその視線で症状が悪化しそうだ。思わず再び布団に顔を隠すと、兵子は小さく溜息をついた。
「そんな状態でひとりで出歩けるわけないでしょう」
「だけど、もう遅いし。早く帰らないと終電が」
「そんなことはどうでもいいんです。どっちにしろ今晩貴方の看病をする人間が必要でしょう。それにいざとなれば野宿だってできますから」
「なっ……! だから、そういうこと言わな――ゲホッゴホッ」
妙齢の女性にあるまじき発言を咎めようとしたタカ丸であるが、その言葉は込み上げてきた咳によって阻まれる。さらに飛び出す咳に背中を丸めると、温かい手がその背中をさすった。
「ほら、そんなに咳をして。水分取って大人しくしていてください」
「誰のせいでむせたと……」
しかし、その呟きに兵子が応えることはない。彼女は常と同じテキパキとした様子でタクシーの手配をすると、水を入れたコップをタカ丸へと運んできた。そのままタカ丸の寝ているベッドに腰を下ろした兵子であるが、その様子は常にもまして大人しい。顔色もよく見れば冴えなく、タカ丸は自分の風邪を感染したかと少しばかり不安になったが、ベッドに置かれた拳が真っ白になるほど握られているのを見て、彼は少しだけ目を眇めた。
(――これは、恐怖だ)
普段はどんなに怖いものを見ても怯える様子など欠片たりとも見せない少女が、なぜか今、こうして怯えている。それにタカ丸が疑問を覚えて拳から流れるように視線を彼女の顔へと移動させると、少女はひどく張り詰めた表情で真っ直ぐ何もない空間を見つめていた。噛みしめられた唇が白くなっている。ああ、それでは噛みきってしまう、とタカ丸が思わず彼女の拳に手を触れると、弾かれたように兵子が彼を振り返った。
「どうしましたか? 水分を取りますか? それとも汗を掻いた?」
「違うよ……」
先程の感情をすぐに隠して己へと向き直る少女に、タカ丸はそれ以上何も言えなかった。――先程垣間見えた表情が嘘のように、今の彼女はいつもどおりなのだ。まるで先程の表情が自分こそが不安だったから見えたような気すらしてくる。けれど、タカ丸に触れられた手はひどく冷たく、それが兵子の緊張を伝えていた。
「――タクシー、そろそろ来る時間ですね。タカ丸さん、辛いでしょうが起きて支度してください。外で待ちましょう」
「うん……」
何かを言おうと思うものの、何を言って良いのかも分からずにタカ丸は兵子に促されるままベッドから立ち上がる。眩暈と熱でふらつく身体を持て余せば、タカ丸の上着を持ってきた兵子が彼にそれを着せながらその身体を支えてくれた。その力強さはいつもと全く変わらないのに、兵子の身体はどこか小さい。自分よりも一回りも下の少女を小さいと思うことなど当たり前のはずなのだが、その細い体躯から感じられる不安にタカ丸は思わず腕を伸ばしていた。
「――大丈夫、俺本当に大したことないんだよ。だからね、心配しないで」
「そんな風に熱でふらふらしている人の言うことなど信用できません。……ほら、行きましょう」
抱きしめた少女はタカ丸の言葉に大きく身体を震わせたが、それがどんな感情から来るものかタカ丸には分からなかった。けれど、先程より少しばかり柔らかくなった兵子の雰囲気にタカ丸は内心で胸を撫で下ろし、己を促す少女の手が少しだけ温かくなっていることに少しだけ微笑んだ。
「病院へはひとりで行けるから、兵子ちゃんはもうお家へ帰りなさい。――毎度毎度、こんな風に遅かったんじゃお母さんもお父さんも心配するでしょう」
「母はタカ丸さんのところにいると知っているから大丈夫です。父は単身赴任でいないですし」
「明日も学校でしょう」
「少し夜更かししたくらいでは大した影響もありません」
しかし、安堵したのも束の間、彼女はやはり頑固だった。もう十七の女の子が出歩くには宜しくない時間帯であるのに、彼女はタカ丸の言うことに一向に頷くことはない。それにタカ丸が思わず溜息をつくと、兵子は少しだけタカ丸の上着を強く握って、小さく小さく呟いた。
「――病院の診察をちゃんと受けて、ただの風邪だって分かったら帰りますから」
「さすがにここまでされて逃げないよ……俺どこまで信用ないの」
「そうじゃなくて……」
何かを言いかけた兵子であるが、マンションのエントランスまで出たところでタクシーが待機しているのに気づき、それ以上の言葉を発することはなかった。タカ丸を支えてタクシーへと近寄り、運転手と二、三話をしてから開いたドアにタカ丸を押し込む。その隣に自分も乗り込んだところで彼女は運転手に行き先を告げ、車を発進させた。動き出した車の振動が身体に響き、少しだけ辛い。それに気づいたのか、兵子がタカ丸の身体を己へと寄りかからせた。
「一番楽な姿勢取ってください。病院まで少しかかりますから」
「うー……ごめん」
さすがにもう見栄を張ることもできず、タカ丸はその細い身体に身を寄せる。膝枕をされるような形になったタカ丸の手を、兵子の手が握った。先程よりもずっと温かくなったそれを思わず握り返すと、優しく宥めるようにタカ丸の頭が撫でられる。自分は一回りも年上なのに、と思いながらも、タカ丸はまるで子どもにするようなその行為の優しさに引き込まれるように、まどろみのなかに身を委ねたのだった。――その頭の隅で考えるのは、今自分を支えている少女のこと。たった十七の、最近まで見ず知らずの少女がここまで自分に入れ込む理由と、そしてあまりにも歳にそぐわぬ態度や知識をタカ丸は不思議に思う。けれど、その考えはすぐにまどろみのなかに消え、タカ丸は傍らの心地よい温もりに己の身を預けたのだった。
| SS::1000のお題集 | 13:11 | comments (x) | trackback (x) |
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