0019 首輪
――いっそ首輪をつけたい。そう思ったのは冷たい床に押し倒されたあとだった。
 古い床板は二人分の重みで少し軋む。それでも痛みが些少なのは、忍たまたちが刺などで怪我をしないよう、きちんと手入れをされているからだろう。用具委員と吉野先生、小松田さんに感謝しなければ、とどうでもよいことを考えていると、喉笛に食いつかれた。
 一瞬、息が止まる。しかし、感じたのは固い歯が皮膚を食い破る痛みではなく、首筋を這う濡れた舌の熱さだった。
「余裕だな、滝夜叉丸」
「まさか。恐ろしくて声も出ませんよ」
「出ているじゃないか」
 掛け合いを楽しむ小平太の顔は穏やかだが、その目は爛々と獲物を狙って光っている。今にも舌なめずりしそうな様子に、滝夜叉丸は小さく溜息をついた。
 この男を飼い馴らすことができたらどれだけ楽だろうか。首輪をつけて鎖でつないで、己の命に忠実に従う獣。その考えは滝夜叉丸にとってひどく甘美に思えたが、同時にとてもつまらないものに思えた。
(――馴れないからこそ、美しいのだ)
 誰にも、自分にも馴れない孤高の獣。手なづけられる程度の強さなど意味がない。常に喉笛へ食いつかれるような緊張感を覚えるような、そんな獰猛な獣でなければ。
「今度は何を考えている?」
「……貴方のことを」
 滝夜叉丸は己に覆いかぶさる男の頬に手を伸ばした。それを小平太は拒まない。けれど、柔らかな手のひらに擦り寄りもしない。ただ熱を秘めた瞳を滝夜叉丸に向けるだけだ。それに滝夜叉丸はただ口の端を上げ、己を喰らい尽くそうとする男にその身体を明け渡した。

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