2011,08,12, Friday
※注意:この作品には月経、百合の表現が含まれます
「ううー……」
「留(とめ)さん、大丈夫? お腹さすろうか?」
保健室のベッドの上、身体を丸めて唸る幼馴染に善法寺 伊緒(いお)が囁いた。普段はほとんどないと言って良いくらいの痛みが、今回に限ってはひどく重いらしい。真っ青な顔で痛みを堪える食満 留に、伊緒は同じく青い顔で傍に控えていた。
彼女が握り締めた痛み止めの薬は既に服用させてある。さすがに即効性があるわけではないから、薬が効き始めるまでは辛抱しなければならない。早く効け、と今のところ役に立っていない錠剤を握り締めながら、伊緒は布団の中で冷や汗をかく幼馴染の腰をさすった。
「伊緒、私なら大丈夫だから……お前は授業戻れ。次もあるだろ」
「私は保健委員だから大丈夫。新野先生もいらっしゃらないし、せめて先生がお戻りになるまでは一緒に居るよ。――あ、そうだ、今湯たんぽ作るね。待ってて、少しは違うはずだから」
自分を案じて掛けられる言葉に伊緒はにこりと微笑んで首を横に振った。――彼女は知らない。己がこんなにも今幸せだということを。
叶わぬ恋だと知っていた。己の方がおかしいのだと、何を望むこともできないのだと。それでも彼女の傍に居られるのならば、彼女の役に立てるのならば、こんなに幸せなことはない。伊緒は自分の歪んだ感情に自重しつつ、お湯を沸かして手慣れた様子で湯たんぽを作った。
しかし、同時に彼女の苦しみが少しでも長引けば良い、と伊緒は心の隅で思う。
そうすれば、伊緒はずっと彼女の傍に居られる。苦しむ留は勿論見たくないが、彼女の痛みが引いてしまえば、傍に居る大義名分を失ってしまうから。最低だ、と思いながらも、伊緒は手早く湯たんぽをタオルで包んで留の許へと戻った。
「さ、留さん。これお腹に当てて。――腰、さすってあげる。早く楽になると良いね」
「……悪いな、伊緒。私はお前に甘えてばかりだ」
「何を馬鹿なこと。いつも面倒見てもらっているのはこっちだもの、こんな時くらいお世話しないでどうするの。大丈夫、留さんは何も心配しないで良いんだよ。お腹痛いのは留さんの所為じゃないでしょ」
ゆるゆると布団越しに腰を撫でながら、伊緒は言葉とは裏腹な己の浅ましさに吐き気がする思いだった。――このまま時が止まれば良いのに、そう願ってしまう自分が恐ろしい。また、布団越しに伝わる華奢な腰の感触に欲を感じる己を心底軽蔑する。
けれど、想いは募るばかりで、決して伊緒の思うように消えてはくれない。何だか泣きたい気持ちになりながら、伊緒は留の腰をさすり続けたのだった。
「ううー……」
「留(とめ)さん、大丈夫? お腹さすろうか?」
保健室のベッドの上、身体を丸めて唸る幼馴染に善法寺 伊緒(いお)が囁いた。普段はほとんどないと言って良いくらいの痛みが、今回に限ってはひどく重いらしい。真っ青な顔で痛みを堪える食満 留に、伊緒は同じく青い顔で傍に控えていた。
彼女が握り締めた痛み止めの薬は既に服用させてある。さすがに即効性があるわけではないから、薬が効き始めるまでは辛抱しなければならない。早く効け、と今のところ役に立っていない錠剤を握り締めながら、伊緒は布団の中で冷や汗をかく幼馴染の腰をさすった。
「伊緒、私なら大丈夫だから……お前は授業戻れ。次もあるだろ」
「私は保健委員だから大丈夫。新野先生もいらっしゃらないし、せめて先生がお戻りになるまでは一緒に居るよ。――あ、そうだ、今湯たんぽ作るね。待ってて、少しは違うはずだから」
自分を案じて掛けられる言葉に伊緒はにこりと微笑んで首を横に振った。――彼女は知らない。己がこんなにも今幸せだということを。
叶わぬ恋だと知っていた。己の方がおかしいのだと、何を望むこともできないのだと。それでも彼女の傍に居られるのならば、彼女の役に立てるのならば、こんなに幸せなことはない。伊緒は自分の歪んだ感情に自重しつつ、お湯を沸かして手慣れた様子で湯たんぽを作った。
しかし、同時に彼女の苦しみが少しでも長引けば良い、と伊緒は心の隅で思う。
そうすれば、伊緒はずっと彼女の傍に居られる。苦しむ留は勿論見たくないが、彼女の痛みが引いてしまえば、傍に居る大義名分を失ってしまうから。最低だ、と思いながらも、伊緒は手早く湯たんぽをタオルで包んで留の許へと戻った。
「さ、留さん。これお腹に当てて。――腰、さすってあげる。早く楽になると良いね」
「……悪いな、伊緒。私はお前に甘えてばかりだ」
「何を馬鹿なこと。いつも面倒見てもらっているのはこっちだもの、こんな時くらいお世話しないでどうするの。大丈夫、留さんは何も心配しないで良いんだよ。お腹痛いのは留さんの所為じゃないでしょ」
ゆるゆると布団越しに腰を撫でながら、伊緒は言葉とは裏腹な己の浅ましさに吐き気がする思いだった。――このまま時が止まれば良いのに、そう願ってしまう自分が恐ろしい。また、布団越しに伝わる華奢な腰の感触に欲を感じる己を心底軽蔑する。
けれど、想いは募るばかりで、決して伊緒の思うように消えてはくれない。何だか泣きたい気持ちになりながら、伊緒は留の腰をさすり続けたのだった。
| SS::私立忍ヶ丘学園 | 02:31 | comments (x) | trackback (x) |
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