0009 手刀
 パタパタと軽い足音を立てて生徒が部屋までやってくる。それに顔を上げた土井半助は、視界に入った生徒が手に持っているものを見た瞬間に顔をしかめた。――もはや見慣れたとすら言っても良いそれは、ある人物から自分へと宛てられた矢文である。しかし、その内容があまりにも好ましくなかったため、半助は差し出されたそれをめちゃくちゃにして投げ捨ててやりたい衝動に駆られた。
「土井先生」
「諸泉尊奈門さんからです」
「お返事を門の前で待ってらっしゃいます」
 三人組が口々に告げる内容に頭が痛くなる思いがした。
「追い返しなさい」
「土井先生〜俺たちがプロ忍に敵うと思ってるんですかあ?」
 半助の言葉に生意気な口を利くのはきり丸だ。それに半助は露骨に嫌な顔をしたが、きり丸が言うことも道理である。
「……行くしかないのか」
 半助が小さく呟くと、キリキリと胃の痛みが生じはじめる。やらなければならないことは山ほどあるのに、こういった雑事に時間を取られては作業が遅れている。ただでさえ学園長の突然の思いつきや一年は組の良い子たちが巻き込まれるトラブルに授業時間が大幅に削られているのだ。その遅れを取り戻すためには、いかに効率よく授業を進めるかが重要であるのに、その準備のために使えるはずの限りある時間を削られ、半助は深い溜息をついた。



「やっと来たか、土井半助! 私に恐れをなして逃げ出したのかと思ったぞ」
「諸泉くん、私は忙しいんだが……」
 いつものとおりに指定された場所へ行くと、既にやる気十分の尊奈門が立っていた。それに半助は小さくぼやくが、溜息とともに吐き出されたそれは一切合財無視される。ひとり盛り上がりはじめる尊奈門に、半助はまた深い溜息をついた。
「文房具を武器にすることは認めないからな!」
「……はいはい」
 もはやお決まりとなった台詞に惰性で答え、半助は軽く身構える。真っ直ぐに尊奈門を見れば、あれこれ策を練っているのはすぐに分かった。
(……着眼点は悪くないんだが、如何せん未熟なんだよなあ)
 視線の動きやちょっとした仕草から、何を狙っているのか丸分かりである。半助は己に向かってくる尊奈門を軽くいなすと、その脳天に手刀を入れた。
「いっ……!」
「これで一本。もう良いだろう、私は忙しいんだ」
「なん、だと……! もっと真面目にやれ、土井半助!」
「真面目も真面目、大真面目なんだけどね。――大体、今のが真剣だったら間違いなく頭割られてるんだぞ。分かったら今日は帰った帰った! さっきから言っているけどね、私は忙しいんだ」
 いつもならもう少し構ってやるところだが、今日は本当に忙しいのだ。半助は己を射殺さんばかりに睨みつける尊奈門を片手で追い払う仕草をすると、自分たちの〈決闘ごっこ〉を見物していた三人組を促して学園のなかへと戻っていく。
 ――最後に残された尊奈門はといえば、相変わらず自分と半助の間に隔たる大きな実力差に悔しさを噛みしめ、怒りの雄叫びを上げたのであった。

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