0006 こ、殺してやる!!
「こ、殺してやる……!」
 いつものようにアルバイトへ励んでいたきり丸は、耳に飛び込んできた物騒な言葉に顔を青くした。――もちろん、恐怖からなどではない。厄介なことになった、という焦燥からである。
 それもそのはず、今日のアルバイトは有難迷惑な三人組――もとい、好意できり丸のアルバイトを手伝ってくれている六年生の潮江文次郎、中在家長次、七松小平太と一緒だからだ。忍たまの先輩としては尊敬もし、また頼りになる三人であるが、これがアルバイトとなると話は別だ。図書委員会で一緒の中在家長次はまだマシなほうだが、三人とも見事な忍者馬鹿であるため、どうにも世間一般と感覚がずれている。そのため、どうにも商売を手伝ってもらうのに支障が出るのだ。しかも、その最たる理由が彼らの喧嘩っ早さとなれば、現在のきり丸の危惧はすぐに理解できるだろう。――そして、その危惧は哀しいかな、的中してしまうのである。
「何だ何だあ!」
 手伝っていた店から真っ先に飛び出してきたのは、暴れるのが大好きな七松小平太である。出てこなくて良い、ときり丸が思うより先に、続いて潮江文次郎、最後に中在家長次が表に現れた。その瞳は三者三様に輝いており、それまでの平穏――つまり、彼らにとっての退屈である――を塗り替える新しい出来事を歓迎しているように見えた。
「せ、先輩……」
「……危険だな」
 顔を引きつらせたきり丸の側で、長次が小さく呟く。その視線を辿れば、若い女性が刃物を突き付けられて立ちすくんでいた。その光景にきり丸は目を見張る。
 正直なところ、ただの喧嘩だと思っていたのだ。町中での喧嘩など珍しいことでもないし、気の荒い連中であれば物騒な発言のひとつや二つ、平気で飛び出してくる。しかし、目の当たりにした状況はそんな可愛らしいものではなく、きり丸は思わず傍らの長次を見上げた。
「小平太、文次郎」
「あいよ」
「分かった」
 阿吽の呼吸、とでも言うのだろうか、彼らは名前を呼び合うだけで意志の疎通を果たし、あまりにも自然な動きで人ごみのなかへと溶け込んだ。その背中を見送った長次は、不安げに己を見上げるきり丸の頭を撫で、傍に落ちていた小石を拾う。その重さを確かめるように小石を握った拳を揺らすと、長次は目にも留まらぬ速さでその小石を投擲した。
 それは寸分違わず男の手元へと命中し、男は手から刃物を取り落とす。それに男が動揺した一瞬の隙をついて小平太が男へと飛び掛かり、その男を地面へと組み伏せた。文次郎は恐怖で身動きができない女性を背にかばい、安全な場所へと移している。――それですべてだった。



「いやー、先輩方すごかったっすねえ! さすがは六年生!」
「はっはっはっ! そうだろう、そうだろう!」
 アルバイトを終えた帰り道にきり丸が明るく言うと、上機嫌だった小平太がきり丸の背中をバシバシと叩いた。その馬鹿力にきり丸がひどく顔をしかめても、小平太は全く気にした様子がない。
 一方の文次郎といえば、またも活躍の機会を得られなかったということで、こちらはひどく不機嫌だ。平常と変わらぬのは長次だけで、彼は背中の痛みに顔をしかめるきり丸の頭を撫でた。
「今日は、驚いたろう」
 ぼそりと呟かれた言葉は、己を案じるもの。それにきり丸は少し驚いたあと、いつもの少し小憎たらしい笑みを浮かべて口を開いた。
「ぜーんぜんっ! だって、先輩方が一緒だったんですから!」
 それを耳にした三人はそれぞれ顔を見合わせた後、手を伸ばして小さな後輩の頭をかき混ぜた。

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