0013 泥酔拳
「世のなかには、酔えば酔うほど強くなる武道家がいるらしいですぞ、土井先生」
「何を馬鹿なことをおっしゃるんですか、山田先生。そんなの、あるわけないでしょう」
「いや、それがどうも本当らしい。松千代先生が唐土の本でそんな武道家の話を読んだとか」
 半助は伝蔵のその発言に少しばかり眉をひそめた。常識的に考えるならばそんなことはありえない。けれど、それがただの噂話ではなく、二年生の教科担当である松千代万から出たというなら話は別だ。極度の恥ずかしがり屋という欠点はあるものの、図書委員会の顧問でもある彼は世間の情勢に詳しく、慎重であるためにもたらす情報も正確だ。――つまり、彼がそう言うのならば、本当にそういう武道家がいるのだろう。
 しかし、その存在に半助はなおさら大きく顔をしかめた。伝蔵を見れば、彼もまた険しい顔で溜息をついている。二人は揃って顔を見合わせ、小さく首を振り合った。
「生徒たちには内緒ですな」
「全くです。
 ――酒、欲、色。子どもたちには今まで忍者の三禁として教えてきたのに、そんな特殊な武道に傾倒されては困りますからね」
「誰もが酒に強いわけでもありませんしな。第一、酒に寄って敵に勝てたところで忍働きに役立つことはない。忍の本分は飽くまで忍び、影として動くこと。敵と面と向かって戦うなど、忍の策としては下の下と言わざるを得ない」
 伝蔵の発言に半助は深く頷いた。忍の道を教える彼らにとって、忍術とは科学。そして、人の為すものである。――下手に奇天烈な技術を耳に入れて、本分に身が入らなくなることは避けたかった。それは伝蔵としても同じ思いのようで、彼らはもう一度顔を見合わせると、揃って小さな溜息をついた。

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