0003 尻尾を巻いて逃げる
「忍術学園めぇ……!」
 ドクタケ忍者隊首領稗田八宝菜が忌ま忌ましげに呟いた。この度も彼らが考えに考え抜いた計画を、一年は組の良い子たちおよび忍術学園の面々に目茶苦茶にされたのだ。せっかく用意した高価な火器も、火薬も、これで全てがパアだ。その悔しさに歯ぎしりするも、今となっては後の祭り。さらに言えば、自分たちの身すら危うい状況である。
 それを見て取った八宝菜は、すぐさま傍の部下たちに声を張り上げた。
「ドクタケ忍者隊、全員退却! 今日のところは 退いてやるぞ、忍術学園の諸君!」
「退いてやるんじゃなくて、負けたんだろ?」
 一年は組のなかでもとりわけ口の悪いきり丸が憎まれ口を叩いたが、それは無視する。同時に懐から取り出した煙玉に火を点け、地面へと投げつけた。導火線が尽きたそれは八宝菜の望み通りにもくもくと周囲へ白い煙を立ち込めさせ、彼らの姿を隠してくれる。その混乱に乗じて、八宝菜は部下たちとともに一目散に駆け出した。
「お頭ぁ、おれたちまた負けたんですね」
「黙れ黙れぇ! 負けたのではない、状況を立て直すために一時退却するのだ!」
「それって結局負けたってことじゃ……」
「違ぁーう! 全然違う! しかし、今はとにかく退くのだあー!」
 実際の状況としては、まさしく「尻尾を巻いて逃げた」わけだが、ドクタケ忍者隊首領として、それを認めるわけにはいかない。そのため、八宝菜は泣き言を漏らす部下たちを叱咤することで、己の胸に生まれる忸怩たる気持ちに見ない振りをしたのであった。

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