2009,08,17, Monday
CP:こへ滝
NOTE:須佐之男命の八岐大蛇退治神話パロ
※この話には性描写が含まれます。
「さて、じゃあそろそろ」
『え? きゃあっ!」
小平太は懐から櫛を取り出して、その表面に口付けながら呪文を唱える。それと同時に滝夜叉の身体が櫛から元の形へ戻り、小平太の腕の中でその見事な裸体をさらしたのであった。
滝夜叉が地に落ちる前に抱き留めた小平太は、先程と同じく首筋に顔を埋める。しかし、その目的は呪を掛けることではなく、首筋に口付け、その甘い香りを心行くまで堪能することだった。首筋に擦り付かれた滝夜叉はどうして良いか分からずに身体を硬直させる。そんな彼女に小平太は笑いを洩らし、その耳元で低く囁いた。
「――ねえ、名前を教えてよ」
「…………女性から先に婚儀を申し込むのは良くないという先例がございます。貴方からお先にお名前を」
「小平太。この国を生んだ二柱の神の片割れ、伊邪那岐命の末であり、高天原を統べる天照大神と夜の世界を治める月読命の弟、須佐之男の小平太だ」
滝夜叉は小平太の名乗りに思わず目を見開いた。――国を生んだ神の末子であれば、八岐大蛇など確かに歯牙にも掛けないだろう。自分がどれほど格の違う相手に意地を張っていたかを知り、滝夜叉は余りの恥ずかしさに過去の自分を埋めて捨てたい気持ちになった。羞恥に思わず俯くと、そこに見えるのは己の裸体。櫛になっていたために服が脱げたことに思い至り、彼女は思わず悲鳴を上げて小平太から離れようとした。
「うわ、何急にどうしたの!?」
「ちょっと見ないでください、あっちを向いて! 貴方、わたくしの服をどこへやったんですか!? いや、もうっ!」
身体を何とか隠そうと暴れる滝夜叉を小平太は離すまいと腕に力を込め、戦いの前に払い捨ててそのままになっていた被衣を彼女に巻き付ける。それで滝夜叉は多少落ち着いたのか、まだ真っ赤な顔をしていたものの暴れるのは止めた。己を掻き抱くように腕を回し、小平太を睨み付ける。
「何故先に言ってくれなかったんです!? は、裸だと知っていたら……!」
「え? 別に良いじゃん、綺麗なんだし。眼福眼福」
「わたくしが美しいのは当然です! ですが、殿方の前で裸をさらすなんて……!」
「もう、すぐ見るのに?」
小平太の発言に滝夜叉は顔を更に真っ赤に染めた。小平太の余りの発言に言葉も出ないようで、何度かわなわなと唇を震わせて小平太を見上げている。小平太はそんな滝夜叉に焦れたのか再び彼女を抱き寄せ、その耳元に囁いた。
「――で? 私まだお前の名前を聞いてないんだけど」
「貴方という方は……!」
「私は教えたぞ」
「…………滝夜叉、この土地を統べる足名椎(あしなづち)、手名椎(てなづち)が娘、奇稲田の滝夜叉でございます」
吐息が掛かるほど間近に迫られ、滝夜叉はその視線を逸らすこともできぬままに囁いた。小平太はその名乗りが終わるのが早いか、彼女の言葉を飲み込むように唇を奪う。滝夜叉は小平太のその行動に驚いて身体を離そうとしたが、身体に絡んだ小平太の腕がそれを許すことはなかった。吐息まで飲み込まれるような口付けに滝夜叉は押し切られる形で、彼の腕に身を委ねる。滝夜叉が身体から力を抜いたことに気を良くした小平太は、彼女の腰を更に引き寄せて更に深くその唇を貪った。
「……ん」
「もう我慢できない。早く行こう」
「え? ひっ!?」
小平太は己の腕の中で大人しくしていた滝夜叉を抱え上げると、そのまま彼女の家へと飛び込んだ。老夫婦に誰も近付けぬよう言い付けると、そのまま彼女の対と思しき場所に突き進む。寝所に己の衣を敷いてから滝夜叉を横たえると、小平太は唐突な展開に固まる滝夜叉にもう一度口付けた。そのまま唇を貪り、驚いて抵抗しようとする滝夜叉を深く抱き込む。何度か角度を変えて口付けた後、小平太は唐突な展開に頭が回らなくなっている滝夜叉を覗き込んで囁いた。
「私たち、夫婦になったんだろう?」
「あ、貴方って方は……物事には順序ってものがあるでしょう!」
「だから、ちゃんと求婚したじゃない。後何が必要なの?」
そうだけれどもそうじゃない。もっと情緒的な問題が存在するのだ、と滝夜叉は言いたかったが、彼の手がそれを許してはくれなかった。
身体に巻き付いていた被衣が開かれ、滝夜叉が抵抗するよりも早く、小平太は彼女のまとう衣を全て取り去っていた。温かい手がどの男も触れたことのない肌に触れ、その手触りを楽しむように動く。滝夜叉は己の身体を這い回る手のひらにどう反応して良いか分からず、ただただ身体を固くしていた。
小平太はそんな滝夜叉を宥めるようにゆっくりと手を動かし、一度その細い肢体を抱き締めてから口付けを施す。少しは落ち着いたのか、身体の力が抜け始めたところでようやく喉元に唇を這わせ、その手をふっくらとした乳房へと動かした。
初めこそは異性に身体を探られているという不安と緊張で何度も身体を強張らせた滝夜叉だが、次第に気持ちが定まったのか、ぎこちなく小平太に身を委ねるように身体の力を抜いて行く。羞恥で頬を赤く染めた少女の健気な様子がまた小平太の気持ちを煽り、滝夜叉を求める心を加速させた。
小平太はまろい身体を更に探ってゆき、とうとう下腹を優しく撫でる。滝夜叉はその行動にびくりと身体を竦ませ、ひどく不安そうに小平太を見遣った。
「――大丈夫、優しくするから」
そういう問題じゃない、とはもう口にしなかった。この状態に至るまで、何度滝夜叉の言葉が彼に容れられただろうか。そのほとんどを無視された身としては、余程受け入れがたいことでなければ諦めるより他にないと既に悟っていた。――それに、決して嫌なわけではないのだ。半分以上が成り行きで成立したこの婚姻だが、滝夜叉は己の意思で彼を受け入れた。
天上で輝く太陽と月の系譜に連なる存在である小平太は、真夏の太陽のような激しさで滝夜叉を求め、夜の柔らかな月のような優しさで滝夜叉を包み込む。結局はこの男を選んだ自分に全ての責任は帰する、と滝夜叉は半ば諦めのような気持ちで、先程から小平太が待ちわびるように手で促す行為を助けるように固く閉じていた足の力を抜いた。
小平太は真っ赤な顔で震えながら己を受け入れる滝夜叉に愛しさを感じて、開いた足の間に己の身体を挟み込みながらも彼女の顔に、唇に何度も口付けを落とした。未だ脱いでいない小平太の衣に縋るように細い指が掛かり、強く握られる。それは彼女が今己が推し進めている行為に感じている不安の強さを示しているようで、小平太はその衣を一気に脱ぎ捨てながら彼女の指に己の指を絡ませた。
「大丈夫、怖くない。大切にするよ、お前を」
「小平太さ……んっ!」
滝夜叉が彼の名前を全て呼ぶ前に、小平太の指が滝夜叉の秘部に掛かる。既に潤い始めていた場所をなぞるように指が形を辿り、滝夜叉の喉から吐息が漏れる。小平太はその反応をひとつひとつ確かめながら、彼女の身体を更に開いていった。次第に訪れる快楽に怯えて強張る身体を何度も宥め、彼はゆっくりとその身体を辿る。何もかもが己より小さく、繊細だ。うっかり壊してしまいそうだ、と考え、小平太はより丁寧に滝夜叉の身体を愛撫した。
甘い四肢を辿れば、次第に滝夜叉の喉から声が漏れる。唇で、指で、身体で彼女のありとあらゆるところを優しく探れば、いやいやと頑是ない子どものような反応を繰り返す。それでも本気で抵抗しない滝夜叉に小平太は笑みを漏らし、ゆっくりとまだ潤いの足りない花唇に口付けをした。さすがにそれは彼女も予想外だったようで、驚いたように腰を引かせた。しかし、小平太もこればっかりは譲る気がなく、逃げる彼女の身体を引き戻してその場所に舌を絡めた。
初めての行為で快楽の何たるやもようやく覚え始めたところだと言うのに、許容範囲を遥かに超える快楽の波に滝夜叉は身体を泳がせる。小平太の頭を両手で押さえて剥がそうとしたが、力の抜け切った彼女の腕でそれが敵うはずもなく、傍若無人とも言える無造作な小平太の暴虐に滝夜叉は悲鳴を上げた。痛いほどの快楽が脳髄を焼く。泣きたくもないのに目尻から涙が零れた。
「いや、やめてください……!」
「少し堪えて、お願いだから。後が辛いよ」
今がもう辛い、と滝夜叉は思ったが、先程からひっきりなしに与えられる快楽に言葉も出ない。喉から漏れるのは嬌声ばかりで、理性と感情が頭の中でせめぎ合っていた。何もかも手放してこの快楽に飲まれたいと叫ぶ感情と、襲い来る未知の感覚に怯えて自我を手放したがらない理性が何度も交差する。しかし、最終的に彼女を征服したのは小平太に目覚めさせられた愛欲を宿した感情であった。
「やああ……っ!」
がくがくと腰が震えるような感覚と共に滝夜叉は頭の中が真っ白く染め変えられていくのだけを把握した。身体を支えていることもできず、ぐったりと脱力する。いつの間にか彼女の秘部はしとどに濡れそぼり、小平太は己の腕の中で大きく震えて喘ぐ少女のその場所を満足そうに眺めた。
「――滝夜叉、痛いだろうけど少し我慢して。辛かったら私にしがみついて、爪を立てても良いから」
小平太は滝夜叉の瞳がまだ虚ろを見ているのを承知で、そう囁いた。震えて脱力している腕を己の首に回させ、ゆっくりとそそり立った己を初々しく誘う花へと触れさせる。滝夜叉を抱き締めればまだ息も整わぬ様子で、小平太の望むように身体を支えるのが精一杯だ。小平太は彼女の頬に、そして唇にもう一度口付けを落としてから、未だ暴かれたことのない奥へと己を進ませた。
「――っ!」
痛みに滝夜叉が目を見開く。首に回った腕に力が籠もり、身体を強張らせる。蕩け切った最中の苦痛に滝夜叉は頭が回らぬようで、ただ痛みを堪えるために身体を縮めた。それが小平太への抵抗となり、彼の進行を阻害する。彼は困ったように一度身体を止め、生理的な涙を零して痛みを堪えている少女の身体を抱き締めた。
背を撫で、何度も宥めるように声を掛ける。名を呼び、唇を吸い、先程知った彼女の悦ぶ場所を探る。そうやって滝夜叉の身体が少し落ち着いたところで、再び腰を進めてはやめるのを繰り返し、彼が実際に彼女に全てを納めるにはしばらくの時間を要した。
ようやく彼らが最後まで繋がった時には二人とも汗みずくで、何だか滑稽になって顔を合わせて笑い合う。滝夜叉は己の中で確かな質量を持っているその存在を感じながら、己を慈しんで繰り返し睦言を囁く小平太に笑いかけた。腕を伸ばせば応えるように指が絡まり、額が合わせられる。――この男性を選んで良かった、選ばれて嬉しいと滝夜叉は静かに思った。
小平太はしばらく大人しく滝夜叉の身体に己が馴染むのを待った後、ゆっくりと動き出した。滝夜叉自身は全くその行為で快楽を得ることはできなかったが、小平太がひどく丁寧に、熱心な様子で己を暴く様子が嬉しく、彼の身体に腕を回してその行為を受け入れた。小平太も滝夜叉に負担が掛かっているのは理解しているのか、彼女を大切な宝玉でもあるかのように抱き締めてから優しく押し入り、抜け出すことを繰り返し、最後に彼女の胎内へ己の子胤を流し込んだ。
「……滝夜叉、新居はどこに建てようか?」
「え……?」
初めての行為で疲れきって、小平太の腕の中で甘えるように彼に身体を寄り添わせていた滝夜叉は小平太の言葉に驚いて目を瞬かせた。それに彼女の髪を手で梳いていた小平太が苦笑し、彼女の頬に口付けを落としながら続ける。
「結婚していつまでも親元に居ることはないだろう。子どももそのうち出来るだろうし、早く新居を建ててそこに移り住まないと。――それに滝夜叉、お前良いのか? これから毎晩私はお前を召すんだぞ。声も何もかも親に筒抜けでは嫌だろう」
「なっ……!」
小平太の露骨な物言いに、滝夜叉は先程までの行為を思い出して赤面した。それが己の親に筒抜けであることを思えば、尚更羞恥で顔が赤らむ。真っ赤な顔で絶句する滝夜叉に、小平太はそれ見たことかと笑った。
「私だって邪魔が少ない方が嬉しいしな。――明日からしばらく探してくるから、期待していてくれ。何、すぐに戻るよ。新妻を長く放っておけるほど、私は気が長い方じゃないんだ」
「……探してくるって……その、どちらまでお行きになるのですか?」
「ん? ああ、この出雲国で良い土地を探すつもりだ。――そこで滝夜叉としばらく暮らしてから、私は一度〈根堅州国(ねのかたすくに)〉へ行こうと思う。私の母――伊邪那美命(イザナミノミコト)がおわす土地で、是非一度お会いしたいと思っているから」
滝夜叉は小平太のその言葉に身体を起こした。身体に掛かっていた衣が落ち、先程の行為で赤く散らされた花が咲く白い肌が露わになる。小平太は身体を隠すこともなく、己の腕に手を掛ける滝夜叉を目を細めて眺めながら彼女の言葉を待った。
「――その時は、わたくしもお連れくださいね」
「え?」
「…………貴方はきっと、そちらへ行ってお戻りにはならないでしょう。そんな予感がするんです。だから、わたくしも連れて行ってください。――わたくしは貴方の妹(いも)です。どこまでも貴方にお伴いたします」
小平太は真っ直ぐに己を見て告げる少女の瞳に笑って、その身体を抱き寄せる。先程まで不安で震えていたとは思えぬ意思の強さに、小平太は己の目が確かだったことを知った。小平太の腕の熱さに、滝夜叉がくつりと笑みを漏らす。それに小平太が問いかけるように彼女の顔を覗き込むと、滝夜叉は柔らかい笑みを浮かべてただ首を振った。
「ひとつだけ分かることは、わたくしと貴方は妹背となったことです。――その縁(えにし)がどこまで続くのか、わたくしには分かりません。けれど、そう……形を変えても、生を変えても、わたくしは貴方とまたお逢いすることでしょう」
「へえ、どうしてそう思うんだ」
「……それは秘密です」
滝夜叉は己の首に顔を埋める小平太を甘やかすように抱き締めた。身体が小さいので、抱き返されると彼に包まれる形となる。お互いの体温が溶け合って、それがひどく心地良かった。その甘い感覚に目を閉じ、滝夜叉は先程の快楽で得た白い視界の奥に見えた光景を思い出す。
見えたのは、見たこともない装束を着て髪を頂髪に結んで頭に何かを巻いている己と、同じような恰好をした小平太の姿。今とは随分と時間が経った頃のようで、その間に何度生を繰り返したかも分からない。ただ、それでもまた出逢えるのだという確信だけが滝夜叉にはあった。そして、苦笑する。つい先程まではこの男に何の感情も抱いていなかったはずなのに、今ではこんなに愛おしい。これも宿命(さだめ)というものなのだろうか、そんなことを考えながら、滝夜叉は小平太の身体に身を委ねる。そうして、これから己が辿る運命を手繰るように頭の中で糸を探しながら、ゆっくりと背の君の腕の中で眠りに就いたのだった。
――彼女は小平太に連れられて須賀に入り、更にその後に根堅州国へその身を移す。彼らの間に生まれた須勢理比売(スセリビメ)が後の豊葦原の支配者となる大国主神(オオクニヌシノカミ)の細君となり、新たな時代を紡いでいくのはまた別の話。
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NOTE:須佐之男命の八岐大蛇退治神話パロ
※この話には性描写が含まれます。
「さて、じゃあそろそろ」
『え? きゃあっ!」
小平太は懐から櫛を取り出して、その表面に口付けながら呪文を唱える。それと同時に滝夜叉の身体が櫛から元の形へ戻り、小平太の腕の中でその見事な裸体をさらしたのであった。
滝夜叉が地に落ちる前に抱き留めた小平太は、先程と同じく首筋に顔を埋める。しかし、その目的は呪を掛けることではなく、首筋に口付け、その甘い香りを心行くまで堪能することだった。首筋に擦り付かれた滝夜叉はどうして良いか分からずに身体を硬直させる。そんな彼女に小平太は笑いを洩らし、その耳元で低く囁いた。
「――ねえ、名前を教えてよ」
「…………女性から先に婚儀を申し込むのは良くないという先例がございます。貴方からお先にお名前を」
「小平太。この国を生んだ二柱の神の片割れ、伊邪那岐命の末であり、高天原を統べる天照大神と夜の世界を治める月読命の弟、須佐之男の小平太だ」
滝夜叉は小平太の名乗りに思わず目を見開いた。――国を生んだ神の末子であれば、八岐大蛇など確かに歯牙にも掛けないだろう。自分がどれほど格の違う相手に意地を張っていたかを知り、滝夜叉は余りの恥ずかしさに過去の自分を埋めて捨てたい気持ちになった。羞恥に思わず俯くと、そこに見えるのは己の裸体。櫛になっていたために服が脱げたことに思い至り、彼女は思わず悲鳴を上げて小平太から離れようとした。
「うわ、何急にどうしたの!?」
「ちょっと見ないでください、あっちを向いて! 貴方、わたくしの服をどこへやったんですか!? いや、もうっ!」
身体を何とか隠そうと暴れる滝夜叉を小平太は離すまいと腕に力を込め、戦いの前に払い捨ててそのままになっていた被衣を彼女に巻き付ける。それで滝夜叉は多少落ち着いたのか、まだ真っ赤な顔をしていたものの暴れるのは止めた。己を掻き抱くように腕を回し、小平太を睨み付ける。
「何故先に言ってくれなかったんです!? は、裸だと知っていたら……!」
「え? 別に良いじゃん、綺麗なんだし。眼福眼福」
「わたくしが美しいのは当然です! ですが、殿方の前で裸をさらすなんて……!」
「もう、すぐ見るのに?」
小平太の発言に滝夜叉は顔を更に真っ赤に染めた。小平太の余りの発言に言葉も出ないようで、何度かわなわなと唇を震わせて小平太を見上げている。小平太はそんな滝夜叉に焦れたのか再び彼女を抱き寄せ、その耳元に囁いた。
「――で? 私まだお前の名前を聞いてないんだけど」
「貴方という方は……!」
「私は教えたぞ」
「…………滝夜叉、この土地を統べる足名椎(あしなづち)、手名椎(てなづち)が娘、奇稲田の滝夜叉でございます」
吐息が掛かるほど間近に迫られ、滝夜叉はその視線を逸らすこともできぬままに囁いた。小平太はその名乗りが終わるのが早いか、彼女の言葉を飲み込むように唇を奪う。滝夜叉は小平太のその行動に驚いて身体を離そうとしたが、身体に絡んだ小平太の腕がそれを許すことはなかった。吐息まで飲み込まれるような口付けに滝夜叉は押し切られる形で、彼の腕に身を委ねる。滝夜叉が身体から力を抜いたことに気を良くした小平太は、彼女の腰を更に引き寄せて更に深くその唇を貪った。
「……ん」
「もう我慢できない。早く行こう」
「え? ひっ!?」
小平太は己の腕の中で大人しくしていた滝夜叉を抱え上げると、そのまま彼女の家へと飛び込んだ。老夫婦に誰も近付けぬよう言い付けると、そのまま彼女の対と思しき場所に突き進む。寝所に己の衣を敷いてから滝夜叉を横たえると、小平太は唐突な展開に固まる滝夜叉にもう一度口付けた。そのまま唇を貪り、驚いて抵抗しようとする滝夜叉を深く抱き込む。何度か角度を変えて口付けた後、小平太は唐突な展開に頭が回らなくなっている滝夜叉を覗き込んで囁いた。
「私たち、夫婦になったんだろう?」
「あ、貴方って方は……物事には順序ってものがあるでしょう!」
「だから、ちゃんと求婚したじゃない。後何が必要なの?」
そうだけれどもそうじゃない。もっと情緒的な問題が存在するのだ、と滝夜叉は言いたかったが、彼の手がそれを許してはくれなかった。
身体に巻き付いていた被衣が開かれ、滝夜叉が抵抗するよりも早く、小平太は彼女のまとう衣を全て取り去っていた。温かい手がどの男も触れたことのない肌に触れ、その手触りを楽しむように動く。滝夜叉は己の身体を這い回る手のひらにどう反応して良いか分からず、ただただ身体を固くしていた。
小平太はそんな滝夜叉を宥めるようにゆっくりと手を動かし、一度その細い肢体を抱き締めてから口付けを施す。少しは落ち着いたのか、身体の力が抜け始めたところでようやく喉元に唇を這わせ、その手をふっくらとした乳房へと動かした。
初めこそは異性に身体を探られているという不安と緊張で何度も身体を強張らせた滝夜叉だが、次第に気持ちが定まったのか、ぎこちなく小平太に身を委ねるように身体の力を抜いて行く。羞恥で頬を赤く染めた少女の健気な様子がまた小平太の気持ちを煽り、滝夜叉を求める心を加速させた。
小平太はまろい身体を更に探ってゆき、とうとう下腹を優しく撫でる。滝夜叉はその行動にびくりと身体を竦ませ、ひどく不安そうに小平太を見遣った。
「――大丈夫、優しくするから」
そういう問題じゃない、とはもう口にしなかった。この状態に至るまで、何度滝夜叉の言葉が彼に容れられただろうか。そのほとんどを無視された身としては、余程受け入れがたいことでなければ諦めるより他にないと既に悟っていた。――それに、決して嫌なわけではないのだ。半分以上が成り行きで成立したこの婚姻だが、滝夜叉は己の意思で彼を受け入れた。
天上で輝く太陽と月の系譜に連なる存在である小平太は、真夏の太陽のような激しさで滝夜叉を求め、夜の柔らかな月のような優しさで滝夜叉を包み込む。結局はこの男を選んだ自分に全ての責任は帰する、と滝夜叉は半ば諦めのような気持ちで、先程から小平太が待ちわびるように手で促す行為を助けるように固く閉じていた足の力を抜いた。
小平太は真っ赤な顔で震えながら己を受け入れる滝夜叉に愛しさを感じて、開いた足の間に己の身体を挟み込みながらも彼女の顔に、唇に何度も口付けを落とした。未だ脱いでいない小平太の衣に縋るように細い指が掛かり、強く握られる。それは彼女が今己が推し進めている行為に感じている不安の強さを示しているようで、小平太はその衣を一気に脱ぎ捨てながら彼女の指に己の指を絡ませた。
「大丈夫、怖くない。大切にするよ、お前を」
「小平太さ……んっ!」
滝夜叉が彼の名前を全て呼ぶ前に、小平太の指が滝夜叉の秘部に掛かる。既に潤い始めていた場所をなぞるように指が形を辿り、滝夜叉の喉から吐息が漏れる。小平太はその反応をひとつひとつ確かめながら、彼女の身体を更に開いていった。次第に訪れる快楽に怯えて強張る身体を何度も宥め、彼はゆっくりとその身体を辿る。何もかもが己より小さく、繊細だ。うっかり壊してしまいそうだ、と考え、小平太はより丁寧に滝夜叉の身体を愛撫した。
甘い四肢を辿れば、次第に滝夜叉の喉から声が漏れる。唇で、指で、身体で彼女のありとあらゆるところを優しく探れば、いやいやと頑是ない子どものような反応を繰り返す。それでも本気で抵抗しない滝夜叉に小平太は笑みを漏らし、ゆっくりとまだ潤いの足りない花唇に口付けをした。さすがにそれは彼女も予想外だったようで、驚いたように腰を引かせた。しかし、小平太もこればっかりは譲る気がなく、逃げる彼女の身体を引き戻してその場所に舌を絡めた。
初めての行為で快楽の何たるやもようやく覚え始めたところだと言うのに、許容範囲を遥かに超える快楽の波に滝夜叉は身体を泳がせる。小平太の頭を両手で押さえて剥がそうとしたが、力の抜け切った彼女の腕でそれが敵うはずもなく、傍若無人とも言える無造作な小平太の暴虐に滝夜叉は悲鳴を上げた。痛いほどの快楽が脳髄を焼く。泣きたくもないのに目尻から涙が零れた。
「いや、やめてください……!」
「少し堪えて、お願いだから。後が辛いよ」
今がもう辛い、と滝夜叉は思ったが、先程からひっきりなしに与えられる快楽に言葉も出ない。喉から漏れるのは嬌声ばかりで、理性と感情が頭の中でせめぎ合っていた。何もかも手放してこの快楽に飲まれたいと叫ぶ感情と、襲い来る未知の感覚に怯えて自我を手放したがらない理性が何度も交差する。しかし、最終的に彼女を征服したのは小平太に目覚めさせられた愛欲を宿した感情であった。
「やああ……っ!」
がくがくと腰が震えるような感覚と共に滝夜叉は頭の中が真っ白く染め変えられていくのだけを把握した。身体を支えていることもできず、ぐったりと脱力する。いつの間にか彼女の秘部はしとどに濡れそぼり、小平太は己の腕の中で大きく震えて喘ぐ少女のその場所を満足そうに眺めた。
「――滝夜叉、痛いだろうけど少し我慢して。辛かったら私にしがみついて、爪を立てても良いから」
小平太は滝夜叉の瞳がまだ虚ろを見ているのを承知で、そう囁いた。震えて脱力している腕を己の首に回させ、ゆっくりとそそり立った己を初々しく誘う花へと触れさせる。滝夜叉を抱き締めればまだ息も整わぬ様子で、小平太の望むように身体を支えるのが精一杯だ。小平太は彼女の頬に、そして唇にもう一度口付けを落としてから、未だ暴かれたことのない奥へと己を進ませた。
「――っ!」
痛みに滝夜叉が目を見開く。首に回った腕に力が籠もり、身体を強張らせる。蕩け切った最中の苦痛に滝夜叉は頭が回らぬようで、ただ痛みを堪えるために身体を縮めた。それが小平太への抵抗となり、彼の進行を阻害する。彼は困ったように一度身体を止め、生理的な涙を零して痛みを堪えている少女の身体を抱き締めた。
背を撫で、何度も宥めるように声を掛ける。名を呼び、唇を吸い、先程知った彼女の悦ぶ場所を探る。そうやって滝夜叉の身体が少し落ち着いたところで、再び腰を進めてはやめるのを繰り返し、彼が実際に彼女に全てを納めるにはしばらくの時間を要した。
ようやく彼らが最後まで繋がった時には二人とも汗みずくで、何だか滑稽になって顔を合わせて笑い合う。滝夜叉は己の中で確かな質量を持っているその存在を感じながら、己を慈しんで繰り返し睦言を囁く小平太に笑いかけた。腕を伸ばせば応えるように指が絡まり、額が合わせられる。――この男性を選んで良かった、選ばれて嬉しいと滝夜叉は静かに思った。
小平太はしばらく大人しく滝夜叉の身体に己が馴染むのを待った後、ゆっくりと動き出した。滝夜叉自身は全くその行為で快楽を得ることはできなかったが、小平太がひどく丁寧に、熱心な様子で己を暴く様子が嬉しく、彼の身体に腕を回してその行為を受け入れた。小平太も滝夜叉に負担が掛かっているのは理解しているのか、彼女を大切な宝玉でもあるかのように抱き締めてから優しく押し入り、抜け出すことを繰り返し、最後に彼女の胎内へ己の子胤を流し込んだ。
「……滝夜叉、新居はどこに建てようか?」
「え……?」
初めての行為で疲れきって、小平太の腕の中で甘えるように彼に身体を寄り添わせていた滝夜叉は小平太の言葉に驚いて目を瞬かせた。それに彼女の髪を手で梳いていた小平太が苦笑し、彼女の頬に口付けを落としながら続ける。
「結婚していつまでも親元に居ることはないだろう。子どももそのうち出来るだろうし、早く新居を建ててそこに移り住まないと。――それに滝夜叉、お前良いのか? これから毎晩私はお前を召すんだぞ。声も何もかも親に筒抜けでは嫌だろう」
「なっ……!」
小平太の露骨な物言いに、滝夜叉は先程までの行為を思い出して赤面した。それが己の親に筒抜けであることを思えば、尚更羞恥で顔が赤らむ。真っ赤な顔で絶句する滝夜叉に、小平太はそれ見たことかと笑った。
「私だって邪魔が少ない方が嬉しいしな。――明日からしばらく探してくるから、期待していてくれ。何、すぐに戻るよ。新妻を長く放っておけるほど、私は気が長い方じゃないんだ」
「……探してくるって……その、どちらまでお行きになるのですか?」
「ん? ああ、この出雲国で良い土地を探すつもりだ。――そこで滝夜叉としばらく暮らしてから、私は一度〈根堅州国(ねのかたすくに)〉へ行こうと思う。私の母――伊邪那美命(イザナミノミコト)がおわす土地で、是非一度お会いしたいと思っているから」
滝夜叉は小平太のその言葉に身体を起こした。身体に掛かっていた衣が落ち、先程の行為で赤く散らされた花が咲く白い肌が露わになる。小平太は身体を隠すこともなく、己の腕に手を掛ける滝夜叉を目を細めて眺めながら彼女の言葉を待った。
「――その時は、わたくしもお連れくださいね」
「え?」
「…………貴方はきっと、そちらへ行ってお戻りにはならないでしょう。そんな予感がするんです。だから、わたくしも連れて行ってください。――わたくしは貴方の妹(いも)です。どこまでも貴方にお伴いたします」
小平太は真っ直ぐに己を見て告げる少女の瞳に笑って、その身体を抱き寄せる。先程まで不安で震えていたとは思えぬ意思の強さに、小平太は己の目が確かだったことを知った。小平太の腕の熱さに、滝夜叉がくつりと笑みを漏らす。それに小平太が問いかけるように彼女の顔を覗き込むと、滝夜叉は柔らかい笑みを浮かべてただ首を振った。
「ひとつだけ分かることは、わたくしと貴方は妹背となったことです。――その縁(えにし)がどこまで続くのか、わたくしには分かりません。けれど、そう……形を変えても、生を変えても、わたくしは貴方とまたお逢いすることでしょう」
「へえ、どうしてそう思うんだ」
「……それは秘密です」
滝夜叉は己の首に顔を埋める小平太を甘やかすように抱き締めた。身体が小さいので、抱き返されると彼に包まれる形となる。お互いの体温が溶け合って、それがひどく心地良かった。その甘い感覚に目を閉じ、滝夜叉は先程の快楽で得た白い視界の奥に見えた光景を思い出す。
見えたのは、見たこともない装束を着て髪を頂髪に結んで頭に何かを巻いている己と、同じような恰好をした小平太の姿。今とは随分と時間が経った頃のようで、その間に何度生を繰り返したかも分からない。ただ、それでもまた出逢えるのだという確信だけが滝夜叉にはあった。そして、苦笑する。つい先程まではこの男に何の感情も抱いていなかったはずなのに、今ではこんなに愛おしい。これも宿命(さだめ)というものなのだろうか、そんなことを考えながら、滝夜叉は小平太の身体に身を委ねる。そうして、これから己が辿る運命を手繰るように頭の中で糸を探しながら、ゆっくりと背の君の腕の中で眠りに就いたのだった。
――彼女は小平太に連れられて須賀に入り、更にその後に根堅州国へその身を移す。彼らの間に生まれた須勢理比売(スセリビメ)が後の豊葦原の支配者となる大国主神(オオクニヌシノカミ)の細君となり、新たな時代を紡いでいくのはまた別の話。
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