悪夢のFRIDAY★NIGHT−2
CP : 伊助×?
NOTE : 現代物
      
 しばらく呆然としていたが、頭痛が治まってきたので、部屋の様子をゆっくりと見回してみた。
 「此処は…………ホテル?」
 考えて出た結論に、冷や汗が流れる。
 私の居る部屋は、私が4人は寝れるであろう広さのあるベットに、サイドのチェストしかない。花のデザインが施された摺りガラスの向こうに、また別の部屋があるらしい。手触りの良いファリブックと家具は、トータルコーディネートされており、インテリアに統一感があった。
 つまり、かなりの高級ホテルのしかも、スイート………。
 重く、痛む頭で記憶を辿れば、此処に連れてきたのは、黒崎警視のはず。けれども、私の視界の範囲に警視の気配はない。
 自慢じゃないけれど、生まれてこの方彼氏という物が居なかった私。超初心者の私はこの状況に恐れをなしてしまった。後先考えずに、逃げ出す事しかその時は思いつかなかった。それが更なる嵐を招くとも知らずに。
 上掛けを捲り、足をふかふかの床に付けたところで、漸く私は気がついた。
 ストッキングを履いていない事に。
 ベットに寝ていたのだから、パンプスを履いていないのは分かるのだが、まさか、ストッキングまで脱がされているとは思わなかった。しかも私がはいていたのは、パンスト。服を脱がされただけでも衝撃であったのに、パンストまで……。愕然と言うかなんと言うか、その時の事は言葉に言い表せないのは確かだ。
 暫く、ベットに座ったままだったが、私は立ち上がった。毛足の長い絨毯を素足で踏みしめながら、服を探して廻る。
 私の服は、隣の部屋のソファの上に、きれいに折りたたまれて置かれていた。ご丁寧にパンストまでだ。その横には私のバックと、下にはパンプスもあった。
そろそろと手を伸ばした所で、この短時間で聞き慣れてしまった声が、耳に届く。
 「おや?どこに行くの?」
 「け、けけけけけ、警視………」
 赤錆の浮き出た機械を無理やり動かす時の様に、私はどもりながら、頭をゆっくりと左へ向けた。漫画ならばギギギギギと背景に擬音が書き込まれるところだろう。
 そして、左肩越しに警視の姿を見た時、私は頭が痛いことも忘れて大声を出してしまった。
 「きゃあ!」
 頭を抱えながら私は、ソファの後ろに逃げ込んだ。
 「な、なんて、格好をしているんですかっ!!」
 「え?だってねぇ〜。風呂上りだから…」
 警視は、白いバスローブ姿だったのだ。しかも上がったばかりで熱いのか、胸元を広げていた。いままで、男性とお付き合いという物をした事がなかった私の脈は一気に上がったみたいで、まるで耳の側に心臓があるかのように、ドックドックと鼓動の音が響いていた。
 「それよりも、伊助。早く私のこと、思い出さないの?期限まで時間がないよ」
 「期限って……。警視が勝手に言ったんじゃないですか!無効です」
 「……無効って…。私の車に乗って一緒に食事して…、普通は同意したと見なされるよ」
 「……………なんですか、ソレ。……ひどい……」
 しゃがみこんでいる私の目の前に、引き締まった男性の足が現れ、次に、タオルでざっと拭ったボサボサの髪の顔が入り込む。警視は私の前で、胡坐を掻いて座り込んだ。
 「ひどいって、それはこっちの台詞だよ。なんで伊助は、私の事、分からないの?」
 警視の眼は、悲しみと苛立ちが半々、映りこんでいた。
 「私はね、直ぐに分かったよ。君が伊助だってことに。伊助が、記憶が無い可能性もあったから慎重に観察したんだけど、どうやら記憶はあるみたいなのに、なんで分からないんだ、私の事をっ!」
 「きゃっ」
 警視は、私の左腕を掴むとぐいっと引っ張った。しゃがんでいて不安定な状態だった私は、見事に、警視の胸元に倒れこんだ。
 「は、離してくださいっ」
 「嫌だ」
 立ち上がろうともがく私だったが、警視が腕を掴んでいてままならない。かえってがっちりと抱き込まれる事となった。





 唇に、柔らかい物が触れる感触がした。
 警視の端正な顔が離れて、クスッと笑う。
 「残念。時間切れだよ、伊助」
 「やっ!」
 実は、この時。警視の言った事は私の頭には届いていなかった。ただ、キスをされてしまったというショックで、頭の中はいっぱいだった。
 「いやっ!やっ!!」
 私は、無我夢中で警視の腕を払うと(意識はなかったけれど、どうも、伊助が覚えていた体術を使ったらしい)、またソファの影になる所に逃げ込んだ。
 「もう、いやっ!やだよぉ。……しょうちゃん、庄ちゃん………たすけてよぉ、庄ちゃん……」
 何故、自分がこんな目にあわなければいけないのか、この6時間余りの出来事に私の許容量はパンクしてしまい、とうとう私は泣き出してしまった。
 「…庄ちゃん、どこに居るの?会いたいよう………庄ちゃん。…しょう……ちゃん………」
 「余り擦ると、明日はウサギになるよ」
 目に当てていた手首をつかまれ、私の前にしゃがみこんだ警視を睨み付けようと視線を上げて、困惑した。
 警視の顔は、悲しみ半分、嬉しさ半分。なんとも言いがたい表情だったから。
 「あー、うん、あー。泣かせるつもりはなかったんだ。ただ、思い出してくれないのが、癪に障って………」
 「……う…そ……」
 「ちょっとだけ、意地悪をするつもりだった。ちょっとだけ…ね」
 「だって…………まさか…」
 警視は頷いた。
 「私が、庄左エ門なんだ」
 笑った警視の顔に、懐かしい庄ちゃんの面影が浮かんだ。



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| 真生木 草 | 23:59 | comments (x) | trackback (x) |

  
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