2009,09,06, Sunday
CP : 伊助×?
NOTE : 現代物
−1−
私、二宮依子(にのみやよりこ)は、警察事務官3年目の21歳。
多分、前世の物だと思う記憶を持って生まれてきたこと以外は、地味で平凡な女の子だ。
さて、そんな私ですが、只今絶賛ピンチ!の途中です!!
時間は夕暮れ時。所謂、桜田門と言われる警視庁の、人の滅多に通らない非常階段の踊り場で、男の人に壁際に追い詰められます。しかも両腕で動きを封じ込められています!!
ひゃぁーー!顔が近いっ!!
「私から逃げられると思っているの?ねえ、伊助?」
私は思わず、瞑っていた目を開けました。
伊助。
そう、伊助。
私が持っている記憶は、二郭伊助という人の物。
時は戦国、伊助は忍者だった。平和を愛する心優しき人だけれど、時代も時代、仕事も仕事だった為に人を殺めたりもした。其の度に伊助の心は悲しみに染まった。死ぬまで伊助は人を殺す事に殺してしまった人たちに罪悪感を持っていた。夢の中で時折私は、伊助と会う事があった。
「伊助が悪いわけじゃないもん。好きで殺した訳じゃないんでしょ?そういう時代だったんだもの。伊助は優しいから、死んじゃった人たちだって分かっていると思うよ。それより、忍術学園のお話、して?」
私は、伊助から忍術学園の話を聞くのが大好きだったから、抱きついてそう言うと、伊助は
「依子は優しいね。…………それにしても学園の話が大好きだよね」
と、苦笑して忍術学園の話をしてくれるのが常だった。
伊助の語る忍術学園は、今で言う諜報員養成の施設であるにも拘らず、とても明るく楽しい場所だった(上級生の課題や任務について私に語ってくれなかった所為もあると思う)。そんな伊助の語る話で一番多かったのは、やはりは組の話だった。乱太郎、きり丸、しんべえの3人組。団蔵、虎若、金吾の鍛錬バカ衆。なめくじ少年喜三太。からくり大好き兵太夫、三治郎。そして、庄左エ門………。
この人は、誰?
私は、目の前の男の人を、改めて見た。
黒崎正道(くろさきまさみち)警視。一介の事務官である私からしてみれば雲の上の人。若手キャリアの中でも優秀と評判の人物。180cm近くある身長に和風のきりっとした顔、そのルックスからも女性職員の間で人気の高い彼は、フェミニストとの評判だ。だが、私の目の前の顔は物凄く、黒い。
伊助という名前を知っているからには、前世の、学園に関係した人である事は確かだ。
前世の記憶を持って生まれてくるなんて尋常じゃないと思うけれど、ありえない話でない事を私は知っている。私は、私以外に前世の記憶を持っている人物を知っているから。勿論、目の前の人ではない。
高校で出会った江月千波(こうづきちなみ)は、忍術学園の2学年下の後輩、大江千早(おおえちはや)だ。千早は体育委員で野牛金鉄さんの外孫という事もあって、金吾の後をついて歩いていたのをよく覚えている。千早も私の事を覚えていてくれて、同級生になったこともあり以来、私達は親友だ。互いに出会うまで、私達は独りだった。前世の記憶があるなんて言ったら変な目で見られるのは分かりきった事なので、2人とも胸の内に仕舞って生きてきたのだ。前世に関係ない友人はちゃんと居たけれど。
だから、本当なら、学園の関係者に出会えた事は嬉しい事のはずなのに、余りの黒さに、怖い!という感情の方が先に立ってしまう。
「そんなに、怖がらなくてもいいじゃないか。君と私の仲なのに…」
「仲ってナンですか!私は地味で平凡なただの下っ端です!」
「地味で、平凡……ねぇ〜」
黒崎警視が人を小馬鹿にした表情を浮かべ、そして私の耳元に口を寄せた。
「前世の記憶があるって、普通じゃ、ないよね?」
そう言うと黒崎警視は、1歩後ろに引き私から離れ、女子職員を虜にする端正な笑みを浮かべた。
「だから、私の物になりなさい?」
私は、青白い顔で頷く他無かった。
「今日中に、私が誰だか当ててごらん。正解したら以後、君にちょっかいは出さないよ」
奇跡的に、人目につく事無く地下の駐車場に辿り着き、警視の車の助手席に滑り込むと、エンジンを掛けながら言われた。
シルバーグレーのベンツは、警視の運転もあるだろうが最高の乗り心地だったが、私はそんな事も気づかずに、ただひたすら記憶のページを捲っていた。
この人は、本当に、誰なんだろうか……
学園で出会った人の中にこんな黒い人は居なかったと思う。確かに三郎次先輩はちょっと意地悪な所も合ったけれど、委員会の時は優しかったし、黒い所はなかった。他の先輩達、後輩達も卒業後はともかく、在学時に黒い人は居なかった。そもそも、私は地味だったので恨みや妬みをもたれなかったと思う………んだけれど
「伊助?」
助手席のドアを開けて、黒崎警視が私の顔を覗き込む。
「はいっ!なんでしょうか」
自分の考えに沈んでいた私は、突如目の前に現れた警視の顔にビックリしてしまい思わず大声を出した。でも、警視は口の端を僅かに動かしただけで、私に手を差し出す。見回すと車は駐車場に停められていて、駐車場の隣には蔦の絡まった洋館があった。
「勝手にイタリアンを選んだけれど、オリーブ油が駄目って事はないよね?」
「はい、大丈夫です」
何時までも手を取らない私に業を煮やしたのか、警視は私の右手を取ると、車の外へと引っ張り出した。そのままレストランへ誘う警視のしぐさは、エスコート慣れしていて、何故か胸がチクンとした。
人目があるからなのかレストランでの警視は、穏やかで一欠けらも黒さが無い気さくな上司っぷりで、私達は和やかに料理を楽しんだ。天と地ほど地位が違うとはいえ、同じ庁舎内に居るから共通の話題もあり、ある程度会話も弾んだ。だから私の気がちょっと緩んだのは間違いない。そして、あの出来事に繋がってしまう。
「車だから、私は飲めないけれど。ここはワインにもこだわっていてね。飲んでご覧」
お酒に強くないし、まさか警視を差し置いて飲めないと断ったけれど、何度も警視が勧めるので頑固に断るのも悪いかと思い直し、私は、ソムリエお勧めのシェリー酒をグラスに1杯だけ貰った。後で思い起こせばそれがいけなかった。職場の飲み会でも乾杯でビールに口をつけて、後はサワーの私は、実は初めて洋酒と言う物を飲んだのだ。まさか、自分があんなに洋酒に弱いとは思ってもみなかったから、その時はあんな事態を招くとは知る由も無かった。
ちょっとだけ警視を、何か変な物を入れたのでは?と疑ったが、警視曰く、「まさか、シェリー1杯であんな風になると思わなかったけれど、私としては思う壺だったよ」と言われて、落ち込んでしまったのは後日の話である。
何時ものベットの寝心地と違う事に気がついた。
私はベットの上に布団を敷いていて、上掛けも掛布団なのに、掛けられているのは軽くて肌心地がよくてでも暖かい。身体も優しく受け止められている。そしてふかふかの枕。私の枕は今でもそば殻だ。
だんだんと意識がハッキリしてきた所で、目を開けた。
飛び込んできたのは、高い天井。見慣れたアパートの天井の2倍は高かった。次に、点されていないメイン照明。けれども部屋をほのかに照らす間接照明。間違いなく私の部屋ではない。
「っつ!」
起き上がった私は、頭を抱えた。起き上がった瞬間、激痛が走ったのだ。
「えっ?…なんで……」
理由の分からない私は、頭に手を当てたのだけれど、目線を下に向けたことで更なる激痛に見舞われることになった。
「やだっ!痛っ……」
私は身に着けていたはずの、ジャケットもブラウスもスカートも着ておらず、スリップ姿だったのだ。
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NOTE : 現代物
−1−
私、二宮依子(にのみやよりこ)は、警察事務官3年目の21歳。
多分、前世の物だと思う記憶を持って生まれてきたこと以外は、地味で平凡な女の子だ。
さて、そんな私ですが、只今絶賛ピンチ!の途中です!!
時間は夕暮れ時。所謂、桜田門と言われる警視庁の、人の滅多に通らない非常階段の踊り場で、男の人に壁際に追い詰められます。しかも両腕で動きを封じ込められています!!
ひゃぁーー!顔が近いっ!!
「私から逃げられると思っているの?ねえ、伊助?」
私は思わず、瞑っていた目を開けました。
伊助。
そう、伊助。
私が持っている記憶は、二郭伊助という人の物。
時は戦国、伊助は忍者だった。平和を愛する心優しき人だけれど、時代も時代、仕事も仕事だった為に人を殺めたりもした。其の度に伊助の心は悲しみに染まった。死ぬまで伊助は人を殺す事に殺してしまった人たちに罪悪感を持っていた。夢の中で時折私は、伊助と会う事があった。
「伊助が悪いわけじゃないもん。好きで殺した訳じゃないんでしょ?そういう時代だったんだもの。伊助は優しいから、死んじゃった人たちだって分かっていると思うよ。それより、忍術学園のお話、して?」
私は、伊助から忍術学園の話を聞くのが大好きだったから、抱きついてそう言うと、伊助は
「依子は優しいね。…………それにしても学園の話が大好きだよね」
と、苦笑して忍術学園の話をしてくれるのが常だった。
伊助の語る忍術学園は、今で言う諜報員養成の施設であるにも拘らず、とても明るく楽しい場所だった(上級生の課題や任務について私に語ってくれなかった所為もあると思う)。そんな伊助の語る話で一番多かったのは、やはりは組の話だった。乱太郎、きり丸、しんべえの3人組。団蔵、虎若、金吾の鍛錬バカ衆。なめくじ少年喜三太。からくり大好き兵太夫、三治郎。そして、庄左エ門………。
この人は、誰?
私は、目の前の男の人を、改めて見た。
黒崎正道(くろさきまさみち)警視。一介の事務官である私からしてみれば雲の上の人。若手キャリアの中でも優秀と評判の人物。180cm近くある身長に和風のきりっとした顔、そのルックスからも女性職員の間で人気の高い彼は、フェミニストとの評判だ。だが、私の目の前の顔は物凄く、黒い。
伊助という名前を知っているからには、前世の、学園に関係した人である事は確かだ。
前世の記憶を持って生まれてくるなんて尋常じゃないと思うけれど、ありえない話でない事を私は知っている。私は、私以外に前世の記憶を持っている人物を知っているから。勿論、目の前の人ではない。
高校で出会った江月千波(こうづきちなみ)は、忍術学園の2学年下の後輩、大江千早(おおえちはや)だ。千早は体育委員で野牛金鉄さんの外孫という事もあって、金吾の後をついて歩いていたのをよく覚えている。千早も私の事を覚えていてくれて、同級生になったこともあり以来、私達は親友だ。互いに出会うまで、私達は独りだった。前世の記憶があるなんて言ったら変な目で見られるのは分かりきった事なので、2人とも胸の内に仕舞って生きてきたのだ。前世に関係ない友人はちゃんと居たけれど。
だから、本当なら、学園の関係者に出会えた事は嬉しい事のはずなのに、余りの黒さに、怖い!という感情の方が先に立ってしまう。
「そんなに、怖がらなくてもいいじゃないか。君と私の仲なのに…」
「仲ってナンですか!私は地味で平凡なただの下っ端です!」
「地味で、平凡……ねぇ〜」
黒崎警視が人を小馬鹿にした表情を浮かべ、そして私の耳元に口を寄せた。
「前世の記憶があるって、普通じゃ、ないよね?」
そう言うと黒崎警視は、1歩後ろに引き私から離れ、女子職員を虜にする端正な笑みを浮かべた。
「だから、私の物になりなさい?」
私は、青白い顔で頷く他無かった。
「今日中に、私が誰だか当ててごらん。正解したら以後、君にちょっかいは出さないよ」
奇跡的に、人目につく事無く地下の駐車場に辿り着き、警視の車の助手席に滑り込むと、エンジンを掛けながら言われた。
シルバーグレーのベンツは、警視の運転もあるだろうが最高の乗り心地だったが、私はそんな事も気づかずに、ただひたすら記憶のページを捲っていた。
この人は、本当に、誰なんだろうか……
学園で出会った人の中にこんな黒い人は居なかったと思う。確かに三郎次先輩はちょっと意地悪な所も合ったけれど、委員会の時は優しかったし、黒い所はなかった。他の先輩達、後輩達も卒業後はともかく、在学時に黒い人は居なかった。そもそも、私は地味だったので恨みや妬みをもたれなかったと思う………んだけれど
「伊助?」
助手席のドアを開けて、黒崎警視が私の顔を覗き込む。
「はいっ!なんでしょうか」
自分の考えに沈んでいた私は、突如目の前に現れた警視の顔にビックリしてしまい思わず大声を出した。でも、警視は口の端を僅かに動かしただけで、私に手を差し出す。見回すと車は駐車場に停められていて、駐車場の隣には蔦の絡まった洋館があった。
「勝手にイタリアンを選んだけれど、オリーブ油が駄目って事はないよね?」
「はい、大丈夫です」
何時までも手を取らない私に業を煮やしたのか、警視は私の右手を取ると、車の外へと引っ張り出した。そのままレストランへ誘う警視のしぐさは、エスコート慣れしていて、何故か胸がチクンとした。
人目があるからなのかレストランでの警視は、穏やかで一欠けらも黒さが無い気さくな上司っぷりで、私達は和やかに料理を楽しんだ。天と地ほど地位が違うとはいえ、同じ庁舎内に居るから共通の話題もあり、ある程度会話も弾んだ。だから私の気がちょっと緩んだのは間違いない。そして、あの出来事に繋がってしまう。
「車だから、私は飲めないけれど。ここはワインにもこだわっていてね。飲んでご覧」
お酒に強くないし、まさか警視を差し置いて飲めないと断ったけれど、何度も警視が勧めるので頑固に断るのも悪いかと思い直し、私は、ソムリエお勧めのシェリー酒をグラスに1杯だけ貰った。後で思い起こせばそれがいけなかった。職場の飲み会でも乾杯でビールに口をつけて、後はサワーの私は、実は初めて洋酒と言う物を飲んだのだ。まさか、自分があんなに洋酒に弱いとは思ってもみなかったから、その時はあんな事態を招くとは知る由も無かった。
ちょっとだけ警視を、何か変な物を入れたのでは?と疑ったが、警視曰く、「まさか、シェリー1杯であんな風になると思わなかったけれど、私としては思う壺だったよ」と言われて、落ち込んでしまったのは後日の話である。
何時ものベットの寝心地と違う事に気がついた。
私はベットの上に布団を敷いていて、上掛けも掛布団なのに、掛けられているのは軽くて肌心地がよくてでも暖かい。身体も優しく受け止められている。そしてふかふかの枕。私の枕は今でもそば殻だ。
だんだんと意識がハッキリしてきた所で、目を開けた。
飛び込んできたのは、高い天井。見慣れたアパートの天井の2倍は高かった。次に、点されていないメイン照明。けれども部屋をほのかに照らす間接照明。間違いなく私の部屋ではない。
「っつ!」
起き上がった私は、頭を抱えた。起き上がった瞬間、激痛が走ったのだ。
「えっ?…なんで……」
理由の分からない私は、頭に手を当てたのだけれど、目線を下に向けたことで更なる激痛に見舞われることになった。
「やだっ!痛っ……」
私は身に着けていたはずの、ジャケットもブラウスもスカートも着ておらず、スリップ姿だったのだ。
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| 真生木 草 | 01:33 | comments (x) | trackback (x) |
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