鈍行


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▼最低小平太(現パロ・無理矢理)



「……どうしてこんなことを」
「何のこと?」
 この状態でそれを聞くか、と滝は思った。委員会の資料をまとめていたはずだったのに、なぜ今自分は床に押し倒されているのだろう。まるで捕食者のような目で自分を見下ろす男に、滝は小さく息を飲む。
 この男は自分など好みではないのだと思っていた。現に彼が選ぶ女性は全て、自分とは正反対の、女性らしい優しい丸みを帯びた、穏やかな女性だった。
 女性的でないとは言わない。だが、彼の好みと自分とでは余りにも違っていた。そういう女性になりたいとは思わないが、自分が彼の対象とは違うのだと、それを理解するのは早かった。聡い滝にとっては、彼がとっかえひっかえする女性の傾向を見るだけで分かったのだ。
 そして、色を好むこの男が、一番傍に居るはずの自分に全く手を伸ばそうとしない事実も、それを肯定していた。だから、滝は小平太と自分の線はもう交わらないものだと諦めていたのだ。
「――貴方は、私に何をするおつもりで?」
 語尾がみっともなく震えたことを滝は恥じるように視線を逸らした。丁寧に手入れされた黒髪が流れ、首筋が明らかになる。日に焼けていないその白さは、彼女の潔癖さとは相反するような色香に満ちていた。
 その真白い首筋に引き寄せられるように、小平太は唇を寄せる。ぺろり、と舐めるとひどく甘美な心地になった。
「ひっ!」
「……ホント、甘い」
 砂糖のような白さだと思った。だから、舐めたら甘いのだろうと想像していたのだが、その肌は小平太が思っている以上に甘かった。舌先に残る微かな刺激に小平太は笑う。
 滝と言えば、首筋を舐められたという事実に先程の強がりも消え、喉を震わせて身体を反転させた。何とか逃げようと床を這うが、のしかかられた状態ではそれも叶わない。すぐに小平太に捕まり、その身体を羽交い絞めにされた。
「放してください……!」
「私から逃げられると思ってるの?」
 ――それは、死刑宣告。滝はただその一言で全ての希望が打ち砕かれたことを知った。
 本来ならば、彼を恋い慕う者としてこの状況は喜ぶべきもののはずだ。だが、今の小平太は滝を恋うているわけではない。ただの性欲処理だ。その道具に滝は選ばれただけ。だからこそ、悔しさと口惜しさで泣きたくなる。
(――吐き気がする)
 己の身体を這い始めた大きな手のひらに、滝は拳を握って涙をこらえた。それは、せめてもの抵抗。己を慰みものにする男への、今の彼女ができる最大の反撃だった。
(泣いてやらない。啼いてやらない。絶対に……!)
 自分がこの男のものになったのだなんて、思わせてなるものか。
 ただその矜持だけが滝を支えていた。けれど、その芯すらも真っ二つに叩き割るように、小平太は滝の耳元で囁いた。
「――滝の全てを、私に頂戴?」



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鈍行*2008.08.06〜 Written by 緋緒


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