鈍行


TOP / NOVEL / DIARY / OFFLINE / MAIL / INDEX

▼時雨 (鉢雷)



「……さすがに神無月にもなると冷たいねえ」
「まさか時雨に当たるとはなあ……」
 学園長から唐突に頼まれたお使いの帰り、鉢屋 三郎と不破 雷蔵は急に降られた雨に追われて偶々あった掘立小屋へと逃げ込んだ。どうやら山の中腹に作られている樵や猟師のための小屋らしく、先客はいなかったが雨宿りや身体を温めるための物は揃っている。冷たい時雨に降られて冷え切った身体を温めようと、二人はそれぞれ小屋を物色して暖を取るために火を焚いた。
「あ、三郎、布があるよ。濡れた服脱いでもこれかぶってたら大丈夫かな?」
「少し薄くないか? 大きさはあるから、二人で寄ってれば大丈夫だろうけど」
「じゃあ、そうしよっか。あ、皆似たような目に遭うんだね、紐掛ける取っ掛かりもあるよ。服下げておけば、そこの火で乾かせるようになってるんだね。よし、掛けちゃおう」
 気心知れた三郎と二人きりということもあるのだろうが、雷蔵は豪快に小袖を脱いだ。肌小袖を着ているので露出が激しいというわけではないが、やはり三郎は驚いて一瞬固まる。それもそのはず、雷蔵は立場上その性別を偽っているものの実際は女子なのだから。
 普通の女子より随分と鍛え上げられ、絞り込まれたその肢体はぱっと見た限りでは男子のようにも見える。だが、三郎はその身体の柔らかさを身を以て知っていたため、惜しげもなく晒された二の腕の白さやあらわになった身体の線に思わず息を飲んだ。
「三郎、お前も干しなよ。濡れてるだろ?」
「あ、ああ」
 自分の小袖を干し終わって戻ってきた雷蔵に声を掛けられ、三郎は思わず声を上ずらせた。下心を見透かされたような気がして、思わず視線を泳がせる。雷蔵はそんな三郎を不思議そうに眺めた後、大きな布を被って大きく息を吐いた。いくら鍛練しているとはいえ、冷たいものは冷たい。温かい火に手をかざして暖を取りながら、三郎が服を掛けて戻ってくるのを待った。
「ほい、三郎」
「ん」
 雷蔵と同じく肌小袖姿で戻ってきた三郎を布を開いて迎え入れ、雷蔵は彼の隣りにもう一度腰を落ち着けた。確かに三郎の言う通り、少し布が薄いようでひとりで被っている分には肌寒い。少し尻をずらして三郎の身体にくっつくと、一度びくりと身体が強張ったのに気付き、雷蔵は慌てて離れた。
「ごめん、冷たかった?」
「いや、大丈夫。すまん、ちょっと考え事していたから驚いた」
 今度は三郎から招き入れられ、雷蔵は今度こそと三郎へ寄り添う。長屋に居る時は彼から寄ってくることの方が多いのだが、唐突に雷蔵が傍によると何故か固まる三郎に少しばかり不満も感じる。普段から三郎は変装をしていることもあって、自分が許さない限り人を近寄らせることはない。恋仲である雷蔵にはさすがにそれを表に出すことはないが、やはり自分も彼の懐に入れないのかと思うと少しだけ寂しかった。ことり、と頭を三郎の肩に置くと、三郎の腕が伸びて己の腰を抱く。抱き寄せられるように腰を引かれたので、そのまま更に身体を寄せた。
「何だ、珍しいな。雷蔵が大人しくくっ付いてくるのって」
「……別に、ちょっと寒いだけだよ」
 少し不機嫌に雷蔵が応えると、三郎はどこか彼女の考えを見透かしたように小さく笑う。むっとして雷蔵が顔を上げると、ひどく優しい瞳と目が合った。そのまま顔が近付いてきて、柔らかく唇を食まれる。いつの間にか向かい合うように身体を寄せ合い、口付けを交わし合っていた。
(――そう言えば、最近授業や実習が忙しくて、三郎とちゃんとしてなかったなあ……)
 次第に熱が籠もる口付けに雷蔵はぼんやりと思う。いつの間にか己の腕を三郎の首に回して、しっかりと彼を受け入れていた。まだ雨はひどく降り続いている。屋根や壁を叩く雨の音を聞きながら、雷蔵は己の肌に伝わる三郎の温もりにゆっくりと身体の力を抜いた。




▲BACK


【和五_雑】――『01.時雨』
お題提供:Rocker NO.34


鈍行*2008.08.06〜 Written by 緋緒


楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル